「先生、これ…どこに腕を置いても気持ち悪いんです。」
初診の日。
50代の男性患者さんは、少し疲れ切った表情でそう話されました。
会社役員として、毎日膨大な判断を迫られる日々。
朝から晩までパソコンに向かい、気づけば10時間以上座りっぱなし。
仕事が終わっても頭は休まらず、眠りも浅い。
症状は左腕の痺れ。
ただ、「ビリビリ痛い」というより、
「腕が自分のものじゃない感じ」
「どこに置いてもしっくりこない」
「午後になると、腕の居場所がなくなる」
そんな表現のほうが近い状態でした。
整形外科では「軽度の頚椎ヘルニア」と説明を受け、牽引や電気治療、マッサージを1か月受けたものの、大きな変化はなかったそうです。
もちろん、頚椎ヘルニアは上肢症状の原因になりえます。
しかし臨床では、画像所見と症状の強さが一致しないケースも少なくありません。
特に今回のように、
・知覚検査に大きな異常がない
・筋力低下がない
・握力低下もない
・腱反射は軽度変化のみ
という場合、「本当に神経根障害だけなのか?」を慎重に考える必要があります。
人の身体は、単純な配線図ではありません。
筋肉。
感覚。
自律神経。
姿勢。
眼球運動。
呼吸。
平衡感覚。
それらがひとつのオーケストラのように協調して働いています。
そして今回のケースでは、その演奏にいくつものズレが起きていました。