それは、ある静かな夜から始まりました。
60代の男性。
長年、不動産業を営んできた方です。
仕事柄、人と会う機会も多く、交渉や契約、管理業務などで忙しい日々を送っていました。
特にその時期は、不動産の繁忙期。毎日のように物件の案内、契約、書類作成が続き、帰宅はいつも遅くなっていました。
そしてその夜も、疲れ切った体でようやく布団に入った瞬間でした。
静かな部屋の中で
「ブーン……」
低く、かすかな音が聞こえてきたのです。
最初は気にも留めませんでした。
冷蔵庫のコンプレッサーか何かだろう、そう思ったのです。
しかし、数分後。
「……?」
音が止まりません。
むしろ、静かなほどはっきり聞こえる。
そして気づきました。
音は外ではなく、左耳の中から鳴っている。
これが、彼の耳鳴りの始まりでした。