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公開日:2022.01.06
更新日:2023.03.01
記載内容は院長 島井浩次が執筆・監修しています。
鍼灸(しんきゅう)とは、漢方薬と並び、東洋医学を代表する治療法です。
鍼灸は、「鍼(針)」と「お灸」を使って、全身にある経穴(ツボ)などの治療ポイントを刺激する治療方法のこといいます。
それらを総称して、鍼灸(しんきゅう)と呼んでいます。
鍼灸は中国が発祥で、日本には奈良時代に伝わりました。
日本では独自の発展をし、約1200年以上の歴史があります。
長い年月廃れず伝承されてきたのは効果があるという一点にしぼられます。
現代では、世界中で科学的研究が進み徐々にその効果の機序が解明されてきています。
WHO(世界保健機構)では、鍼灸治療の 適応症を発表していますので、国際的な基準としてご紹介します。
1979年 にWHOが鍼灸治療の適応疾患を発表 しました。
これは臨床経験にもとづくものであり、必ずしも研究上の裏付けを伴うものではありませんが、鍼灸治療の幅広さが理解される資料です。
上記の表は、掲載されている疾患にしか効果が無いという事ではありません。
あくまで国際基準を提示したのみです。
また、鍼灸治療には施術者の技術によるものが大きいことを付け加えます。
針やお灸をすることで体で何が起こってるの?
針やお灸をすることで、その刺激が脳や脊髄に伝わり反射が起こります。
針やお灸で起こる反射は大きく3つあります。
1,痛みを和らげる反応(下行性疼痛抑制系・DNIC・SIAなど)
2,血流が増える反応(軸索反射)
3,内臓の働きを整える反応(体性-自律神経反射)
これらの反応を利用して、症状に対してアプローチしていきます。
この反応を起こさせるための刺激部位の指標に経穴(ツボ)があります。
経穴(ツボ)は全身に約360個あり国際的な基準で部位や名称が統一されています。
以下は専門的な内容となります。
ご興味のある方はお読み下さい。
鍼灸の治効には、痛みの緩和(鎮痛)、血行促進、筋緊張緩和に加え循環器・消化器・尿器などの機能障害および症状の改善が挙げられます。また、近年では、美容やリラクセーションの分野にも鍼灸は積極的に活用されるようになりました。これらの鍼灸の治効機序(仮説を含む)について説明します。
痛みは「生体の警告信号」と呼ばれ、危険、つまり生命を脅かすような事象が身体に生じたことを伝える重要な役割をもっています。
生体は、痛み信号を得て危険から迅速に身を守る行動や体勢をとります。痛覚は、他の感覚とは異なり、順応しないという特性をもちます。
そのため持続的な痛みは、精神的ストレスや筋緊張あるいは食欲不振など、生体に好ましくない反応を引き起こします。
一方、生体内には、このような痛みによる有害反応を軽減するための仕組み、いわゆる内因性痛覚抑制系が存在します。
内因性痛覚抑制系は、
①全身性に痛覚閾値を上昇させる全身性鎮痛
②脊髄分節性に痛覚閾値を上昇させる脊髄分節性鎮痛
③刺激部位に限局して痛覚閾値を上昇させる末梢性鎮痛
の機序に大別できます。
全身性鎮痛と脊髄分節性鎮痛の発現には中枢神経が関与し、末梢性鎮痛には末梢組織が関与します。
鎮痛は痛覚伝導路のいずれかの部位が抑制され、大脳皮質にある体性感覚野への痛み信号の入力が減ることにより生じます。
また、痛覚伝導路の抑制は、抑制性の神経伝達物質により生じます。これらの物質として、内因性オピオイド(β-エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン), セロトニン、ノルアドレナりン、GABA(γーアミノ酪酸)、アデノシンなどが挙げられます。
ただし、これらすべてが直接的に痛覚伝導路を抑制するわけではありません。
これらの物質のなかには、内分泌器官からホルモンとして血中に放出され、痛覚伝導路を抑制するものもあります。
鍼灸の鎮痛作用には、複数の内因性痛覚抑制系が関与すると考えられています。
全身性鎮痛を引き起こす機序には、
ストレス誘発鎮痛(SIA)
下行性痛覚抑制系
広汎性侵害抑制調節(DNIC)
などがあり、上脊髄(脳幹、間脳、大脳)が深く関与しています。
これらの鎮痛機序は、痛み信号を伝える侵害受容ニューロン(無髄C線維、有髄Aδ線維)からの中枢への入力が増えると、これを抑制しようとする負のフィードバック(ネガティブ・フィードバック)機構があります。
ストレス誘発鎮痛(SIA)とは、身体的および心理的ストレス負荷により発現する鎮痛機構をいいます。
例えば、動物にフットショック(足底への繰り返しの電気刺激あるいは侵害性の熱刺激)を与えると,痛覚閾値の上昇、つまり鎮痛が認められます。
このストレス誘発鎮痛の発現には、内分泌系が関与することが知られています。ストレスは、内分泌系である下垂体-副腎皮質系や交感神経-副腎髄質系を賦活させます。
その結果、下垂体からはβ-エンドルフィンが、副腎質からはアドレナリンが血中に遊離され、これらが神経系に作用して全身的な鎮痛を生じさせると考えられています。
ストレス誘発鎮痛の賦活には、侵害受容ニューロン(無随C線維,有髄 Aδ線維)の興奮が必要です。
その効果の発現には数十分かかりますが、ストレス終了後も数十分から数時間の持続効果がみられます。刺激あるいは灸刺激は、生体にとって一種のストレスであり、ストレス誘発鎮痛と同様の機序により鎮痛効果を得ていると考えられています。
これは、刺激による血中のオピオイドの上昇や、内分泌器官(下垂体、副腎)の摘出の影響、さらには鎮痛効果の持続時間などがその根拠となっています。
下行性痛覚抑制系は、動物を用いて行われた刺激誘発鎮痛(SPA)の研究に基づいています。
刺激誘発鎮痛(SPA)
刺激誘発鎮痛(SPA)は、脳の局所電気刺激により得られる鎮痛作用をいいます。
1969年に、ラットの中脳水道周囲灰白質(PAG) への局所電気刺激により強い鎮痛効果が得られることが報告されました。この発見により、脳内に鎮痛機構が備わっていることが明らかになり、その後、多数の研究者によって橋の青斑核(LC)、延髄の大縫線核(NRM)などの局所電気刺激でも、同様の鎮痛効果が得られることが発見されました。
その後、刺激誘発箱(SPA)を賦活する脳内部位は、それぞれが単独で機能するわけではなく一つの機構を構成していることが明らかとなりました。これらが下行性痛覚抑制系と呼ばれるものです。さらにその後、下行性痛覚抑制系には内因性オピオイドが関与することが明らかとなりました。
下行性痛覚抑制系
下行性痛覚抑制系は、ストレス誘発鎮痛と同様に侵害受容ニューロン(無題 C線維,有酸 Aδ線維)からの入力によって賦活されます。
下行性痛覚抑制系には、視床下部、中脳水道周囲灰白質(PAG)、橋の青斑核(LC)、延髄の大縫線核(NRM)など、上脊椎つまり脳が大きく関与します。
下行性痛覚抑制系では、最終的に青斑核(LC)と大絶線核(NRM)からの下行性線維(ノルアドレナリン作動性ニューロンとセロトニン作動性ニューロン)が脊髄後角で痛みの入力を抑制することにより、鎮痛作用を発現しています。
ただし、顔面領域(三叉神経領域)からの痛みの入力は、延髄(三叉神経脊髄路核)で抑制されます。
下行性痛覚抑制系の賦活
下行性痛覚抑制系の起点は、中脳水道周囲灰白質(PAG)にあります。痛みのない状態では、下行性痛覚抑制系は GABA 作動性ニューロンにより抑制されています。
内因性オビオイド(β-エンドルフィン, エンケファリン)がこのGABA 作動性ニューロンを抑制することにより、下行性痛覚抑制系は賦活します。
下行性痛覚抑制系の賦活には、おもに以下の2つの経路が知られています。
①痛み信号が視床下部に伝えられると、視床下部弓状核のβ - エンドルフィン作動性ニューロンが中風水道周囲灰白質(PAG)にβ - エンドルフィンを放出し、中脳水道周囲灰白質(PAG)のGABA 作動性ニューロンを抑制します。
②痛み信号を伝導する上行路により中脳水道周囲灰白質(PAG)が直接興奮すると、中脳水道周囲灰白質(PAG)のエンケファリン作動性ニューロンがエンケファリンを放出し、β-エンドルフィンと同様に、GABA 作動性ニューロンを抑制します。
下行性痛覚抑制系による痛み信号の抑制
中脳水道周囲灰白質(PAG)のGABA作動性ニューロンが抑制されると、同じく中脳水道周囲灰白質(PAG)に存在するグルタミン酸作動性ニューロンが、橋の青斑核(LC)のノルアドレナリン作動性ニューロンと、延髄の大縫線核(NRM)にあるセロトニン作動性ニューロンを興奮させます。
ノルアドレナリン作動性ニューロンとセロトニン作動性ニューロンの神経線維(軸索)は、おもに脊髄背外側索を下行して脊髄後角へ投射しており、下行性痛覚抑制系の賦活時には、ノルアドレナリン作動性ニューロンはノルアドレナリンを、セロトニン作動性ニューロンはセロトニンを脊髄後角へ放出します。
脊髄後角に放出されたノルアドレナリンとセロトニンは、痛みの信号を伝える一次侵害受容ニューロン(無髄C線維,有髄Aδ線維)と二次侵害受容ニューロン(脊髄後角ニューロン)のシナプス伝達を阻害します。結果として、大脳皮質体性感覚野へ伝わる痛み信号が阻害され、痛覚の抑制つまり鎮痛が生じます。
オピオイドペプチド
古くからケシの乳液を乾燥させたアヘン(阿片)に鎮痛作用があることが知られていました。アヘン(阿片)から抽出された有効成分がモルヒネです。
オピオイド(opioid)とは、モルヒネ様の薬理作用をもち、オピオイド受容体に結合する物質の総称です。オピオイドはペプチドからなるため、オピオイドペプチドとも呼ばれます。
生体内で合成されるオピオイドを内因性オピオイド(内因性オピオイドペプチド)と呼びます。
おもなものとしてβ-エンドルフィン, エンケファリン、ダイノルフィンがあります。これらの内因性オピオイドは、シナプス前細胞の終末から放出され、抑制性神経伝達物質として興奮性シナプス伝達に対して抑制的に働きます。
オピオイド受容体と拮抗薬
オピオイドが結合する受容体をオピオイド受容体と呼びます。
オピオイド受容体には、μ(ミュー) 受容体、δ(デルタ)受容体、κ(カッパ)受容体などがあります。オピオイドにはそれぞれ結合しやすい受容体があり、β - エンドルフィンはμ受容体とδ受容体に、エンケファリンはδ受容体に、ダイノルフィンは、κ受容体に高い親和性を示します。
なお、モルヒネはμ受容体に親和性をもちます。
オピオイド受容体の拮抗薬の一つにナロキソンがあります。ナロキソンはオビオイド受容体に結合し、オピオイドが結合するのを阻害します。
結果として、オピオイドのもつ鎮痛作用の発現を減弱あるいは消失させます。鎮痛はナロキソンで抑制されることから、鎮痛に内因性オピオイドが関与することが明らかとなりました。
下行性痛覚抑制系は痛み信号により賦活されます。当然、熱痛を伴う灸刺激でも賦活されますが、刺激といった痛みを伴わない侵害刺激であっても下行性箱覚抑制系の賦活は可能です。
重要なことは、侵害受容ニューロン(無髄C線維,有髄Aδ線維)を興奮させるような刺激、いわゆる侵害刺激であれば痛みの有無にかかわらず、下行性痛覚抑制系は武活されるということです。
これは、刺激が下行性痛覚抑制系に関与する脳内部位を賦活すること・鎮痛がオピオイド受容体の拮抗薬(ナロキソン)で阻害されることが根拠となっています。
下行性痛覚抑制系を賦活させる刺激部位としては、理論上、全身どこでもよいが圧痛点などのより多くの入力が期待できる部位のほうが効率よくこの系を賦活できます。
痛み感覚が抑制されるまでには20~30分間の誘導時間が必要とされ、生じる鎮痛効果は全身性に作用し(全身性鎮痛)、数十分から数時間持続します。
広汎性侵害抑制調節(DNIC)の機序
広汎性侵害抑制調節(DNIC)は「侵害刺激が痛みを抑制する現象」をいい侵害刺激を与える部位は、痛みのある部位以外であれば全身のどこでもいいです。
また、その鎮痛効果は刺激直後から全身に現れるが(全身性鎮痛)、刺激期間中に限られるという特徴をもっています。
広汎性侵害抑制調節(DNIC)は、下行性痛覚抑制系を構成する脳内部位(中脳水道周囲灰白質、橋の青斑核、延髄の大縫線核など)の破壊による影響を受けないことから、下行性痛覚抑制系とは異なる機序であり、その発現には延髄の背側網様亜核(SRD)が部分的に関与することが知られています。
ただし、以下のように下行性痛覚抑制系と類似する点もあります。
などがあります。
広汎性侵害抑制調節(DNIC)は、侵害刺激である刺激や灸刺激でも生じる下行性痛覚抑制系と同様に、身体の各部位の刺激により生じるので、遠隔部の鍼灸施術による鎮痛機序の一つとして考えられています。
また、下行性痛覚抑制系の項でも述べたように、圧痛点といった痛覚閾値の低い部位への刺激のほうが効率的にその鎮痛作用を誘発します。
ただし、広汎性侵害抑制調節(DNIC)は刺激開始と同時に発現することから、鍼灸の即時的な鎮痛効果に関与すると考えられています。
なお、その鎮痛効果は刺激期間中に限られます。
脊髄分節性鎮痛の機序
身体を硬いものにぶつけたとき、とっさに痛む部位を手で擦ると痛みが和ぎ、腰痛や肩凝りでは痛む部位を指圧すると痛みや凝りは軽減します。
これは脊髄分節性鎮痛と呼ばれるもので、触圧刺激つまり触圧受容器(有髄 Aβ線維)の興奮により生じる鎮痛です。
脊髄分節性鎮痛は、中枢性機序による局所性の鎮痛(刺激局所にのみ鎮痛効果)です。
この鎮痛は、痛みを感じている部位、あるいはその皮膚分節(デルマトーム)に触圧刺激を加えて触圧受容器を興奮させなければなりません。
触圧受容器から有髄Aβ線維(Ⅱ群線維)の興奮が入力した脊髄の分節内で、介在ニューロンにより痛み信号を伝える神経細胞の興奮を抑制します。
この鎮痛効果は脊髄分節性が高い、つまり刺激を加えた領域に限定されます。
また、刺激開始直後から発現しますが、刺激終了とともに速やかに消失し、持続しないという特徴をももちます。
即時性のある鎮痛機序は、速やかに苦痛を取り除きます。脊髄分節性鎮痛の機序は、当初、ロナルド・メルザックとパトリック・D・ウォールが提唱したゲート・コントロール説で説明されました。
ゲート・コントロール説とは、脊髄後角には痛み信号の流入をコントロールするゲート(門)機能がある」というものでした。この説では、脊髄後角において、
①太い神経線維(有髄AB線維)の信号が膠様質ニューロンを興奮させる。
②興奮されたニューロンは、細い神経線維(無髄C線維,有髄Aδ線維)の信号が二次ニューロンに伝達されるのを抑制する。
というものです。しかしながら現在では、そのような構造は脊髄後角では証明されていません。
また著者らによって当初の模式図が改訂されたこともあり、現在ではそのオリジナルのゲート・コントロール説は否定された学説となっています。
ただし、脊髄分前性鎮痛そのものが否定されているわけではありません。
現在においては、脊髄分節性鎮痛も全身性鎮痛と同様に上脊髄(脳幹、間脳、大脳)が関与すると考えられていますが、その詳細は不明です。
非侵害性の刺激(ローラーなど)による鎮痛効果の一部は、脊髄分節性鎮痛で説明できます。
また、臨床や家庭で使用されている経皮的電気神経刺激(TENS)は、当初前述のゲート・コントロール説をもとに開発された治療法です。
パッド型の電極(平板電極)を介して皮膚に高頻度低強度のバルス波(電気刺激)を与えることにより、皮膚に多数存在する有髄Aβ線維を効率よく刺激し、脊髄分節性鎮痛を発現させます。
電気刺激は、受容器を介することなく神経線維を直接興奮させることができます。
また、その刺激強度に比例して、太い神経線維(有髄Aβ線)から細い神経線維(有随Aδ線維,無髄C線維)まで順に興奮させます。
高頻度低強度の TENSは、有髄Aβ線維を直接かつ効率的に興奮させます。
一方、鍼通電は一般に低頻度高強度の刺激を与え、太い神経線維から細い神経線維まで幅広く興奮させることから、その鎮痛効果の一部に脊髄分節性鎮痛も関与すると考えられています。
概説
末梢性鎮痛は、おもに痛み刺激を受容する末梢の侵害受容器(痛み受容器)の興奮性が抑えられることによって起こる局所性の鎮痛機序です。
ATPの代謝産物であるアデノシンによる作用や末梢組織中のマクロファージから放出される内因性オピオイド(β-エンドルフィン)による作用が報告されていますが、賦活のための刺激条件や鎮痛効果の発現様式、作用機序などの詳細については未だ不明な点が多いです。
鎮痛部位への刺鍼による局所的な鎮痛に、末梢性鎮痛が関与している可能性があります。
動物実験では、鎮痛効果の発現までには時間がかかる一方で、その持続時間は長いようです。
鎮痛の発現あるいは効果には、個人差(個体差)がある.神経系の構造や感受性、情動の関与などにも個人差があるが、総鎮痛の個人差に関与する物質としてコレシストキニン(CCK)が関与すると考えられています。
コレシストキニン(CCK)は胆嚢の収縮を促進するホルモンですが、中枢神経においては抗オピオイド作用、つまりオピオイドの作用を阻害する神経ペプチドとして存在します。
動物実験において、鎮痛が発現しにくい群の視床下部や中脳水道周囲灰白質(PAG)では、鍼鎮痛が発現する群と比較して、コレシストキニン(CCK)の含有量やそのmRNA の発現量が多い結果が出ました。
視床下部や中脳水道周囲灰白質(PAG)は下行性痛覚抑制系の関連部位であり、ローエンドルフィン作動性ニューロンやエンケファリン作動性ニューロンが存在することから、コレシストキニン(CCK)がオピオイドの作用を抑制していることが示唆される。
また、コレシストキニン受容体拮抗薬の投与は、鎮痛の発現を促進あるいは効果を増強させることからも、コレシストキニン(CCK)が鉄鎖箱を阻害し、鎮痛発現の個人差に関与していることが分かります。
冷え症やレイノー病などの末梢循環障害に対して鍼灸治療は用いられ、一定の効果があるとされています。近年、盛んに行われている美容鍼灸は、皮膚循環と新陳代謝を促進することを目的として行われています。これまで、鍼灸の皮膚循環の促進の機序として軸索反射が知られており、近年では一酸化窒素の関与も示唆されています。
軸索反射とは、末梢神経の軸索上で起こる反射様現象です。
皮膚に侵害刺激を与えると、刺激部位周辺に紅潮斑(フレア)や浮腫(膨隆)が観察される、紅潮斑(フレア)は軸索反射による皮膚血管の拡張であり、浮腫(膨隆)は血管透過性の亢進に伴う血漿成分の漏出によるものです。
侵害性機械刺激である毫鍼による刺鍼、侵害性熱刺激である有痕灸は、いずれも皮膚に紅潮班(フレア)を生じさせることから、鍼灸による皮膚循環の促進はおもに軸索反射によるものと考えられています。
軸索反射は,以下の機序で生じます。
これらの神経ペプチドはいずれも血管拡張作用を有するが、サブスタンスPには血管透過性を亢進する作用もあり、浮腫(膨隆)の発現に関与します。
なお、軸索反射による炎症反応(血管拡張、浮腫)は神経性炎症と呼ばれます。
軸索反射に関与する侵害受容器はポリモーダル受容器であり、侵害受容線維は主として無髄C線維 (IV 群線維)である、軸索反射は反射様現象であり、反射弓(受容器 →求心路→反射中枢→遠心路→効果器)を有する一般的な反射とは異なります。
つまり、軸索反射には反射中枢が存在せず、脊髄や脳幹は関与しません。
血管内皮細胞は、常時、一酸化窒素(NO)を産生し,血管平滑筋を弛緩させ、交感神経による血管収縮に拮抗しています。
皮膚や筋の血管の緊張は、この一酸化窒素(NO)による血管拡張と、交感神経による血管収縮により調節されています。
近年の研究で、刺激による皮膚血流の増加に刺激局所の一酸化窒素(NO)が関与することが示唆されています。
一酸化窒素(NO)は、CGRPなどの血管拡張物質により産生が増加することが知られています。
鍼による筋血流量の増加は、発痛物質や疲労物質の洗い流しを促進し、筋痛の緩和や筋の疲労回復に役立つと考えられています。
鍼刺激による筋血流量の増加
鍼刺激(毫列局所の筋血流量を有意に増加します。その増加の機序については、大きく2つの機序が考えられており、複数の血管拡張物質が関与します。
軸索反射による血管拡張
軸索反射は、皮膚のみならず筋でも生じます。筋内に刺入された戦は、筋に分布する優害受容器(ポリモーダル受容器)を興奮させ、軸索反射を生じさせます。
軸索反射により侵害受容線維の軸索末端からCGRP、サブスタンスP、VIPなどの血管拡張物質が放出され、これらが筋血管に存在する各々の受容体に結合することで筋血管を拡張します。
ただし、軸索反射による筋血管の拡張は、主としてCGRPによるものと考えられています。
骨格筋細胞由来の血管拡張物質による血管拡張
筋内への刺鍼は骨格筋細を損傷する。骨格筋細胞内には、高エネルギーリン酸化合物であるアデノシン三リン酸(ATP)が存在するが、刺鍼により骨格筋細胞が損傷されると、ATP は細胞内から外へと漏出すします。
漏出したATPは、酵素によって速やかに、ATP→アデノシン二リン酸(ADP) →アデノシンーリン酸(AMP) アデノシンの順で分解されます。
ATP、ADP、 アデノシンは血管拡張作用を有し、筋血管に存在する各々の受容体に結合することで、これを拡張します。
なお、ATPとADPはともにプリン受容体に、アデノシンはアデノシン受容体(プリン受容体の一種)に結合します。
CGRP、ATP、ADPおよびアデノシンなどの血管拡張物質は、各々の受容体に結合し、筋血管を拡張させますが、実際には、これらの血管拡張物質が受容体に結合することにより血管内皮で一酸化窒素(NO)が合成され、この合成されたNOが血管平滑筋を弛緩させ、血管を拡張します。
ただし、血管拡張物質によっては、血管平滑筋に直接作用してこれを弛緩させるものもある。
鍼刺激による刺鍼局所の筋血流量の増加は、刺激依存性です。雀啄術においては、雀啄の回数に比例して筋血流量は増加する一方、アデノシンは前述の末梢性鎮痛に関与することが知られています。
アデノシンが筋循環を改善させつつ痛みを抑制することは大変興味深いです。
刺激による遠隔部の筋血流量の増加については,体性-自律神経反射による機序仮説が提唱されていますが、未だ不明な点も多く、さらなる検討が待たれます。
鍼灸は、高血圧や動悸などの循環器症状を緩和するとされています。
刺激は、動脈血圧および心拍数を低下させることが報告されており、これらの機序についても検討がなされています。
以下、刺激による動脈血圧と心拍数の低下について、検討した研究を紹介します。
刺激による動脈血圧の低下
麻酔ラットの体表のさまざまな部位に刺激を行うと、腎臓を支配する交感神経活動(腎交感神経活動)が抑制され、動脈血圧が低下します。
これらの低下は、皮膚への刺激では観察されず、筋の刺激でのみ観察されます。刺激による動脈血圧の低下には、筋への刺激が必要であることが分かります。
鍼刺激による心拍数の低下
麻酔ラットの体表のさまざまな部位に刺激を行うと、心臓を支配する交感神経活動(心臓交感神経活動)が抑制され,心拍数は減少します。
この刺激による心拍数の減少反応は、受容器を筋内の侵害受容器、求心路を侵害性線維(無髄C線維、有髄Aδ線維)、反射中枢を脳幹、遠心路を心臓交感神経、効果器を心臓とする上脊髄性の体性-内臓反射であることが示されています。
鍼刺激による心拍数の減少は、ヒトにおいても報告されており、この場合、交感神経の抑制のみならず、副交感神経の亢進も関与すると報告されています。
臨床上、鍼灸は筋緊張を緩和することが知られています。その詳細な機序については不明な点が多いですが、以下のような機序を介して筋緊張を緩和していると考えられます。
持続的な痛みはα-γ連関に作用し、筋緊張(筋トーマス)を亢進するとされており、鍼灸は前述の鎮痛機序を介して痛みにより誘発する運動反射を抑制して筋緊張を緩和すると考えられます。
事実、動物実験において、鍼通電刺激は歯髄への侵害刺激により誘発される開口反射を抑制し、その抑制には一部内因性オピオイドが関与するとの報告があります。
この開口反射は、痛みにより誘発される運動反射(屈曲反射、逃避反射)の一つであり、鍼通電刺激は鎮痛機序を賦活して痛みの入力を抑制することにより開口反射を抑制したと考えられます。
鍼灸は、痛みによらない運動反射も抑制することが知られています。
つまり鍼鎮痛以外の機序で運動反射を抑制します。振動誘発指屈曲反射は手掌部に、緊張性振動反射は筋腹あるいは腱へ振動刺激(非侵害刺激)を与えることにより生じる屈曲反射です。
一側の手部(合谷穴)あるいは前腕部(曲池穴など)への刺激は、同側の屈筋群や伸筋群だけでなく、対側の屈筋群の振動誘発指屈曲反射あるいは緊張性振動反射を抑制します。
臨床においては、少数の刺域で複数の筋の緊張を緩和させたり、患部から離れた部位へ刺鍼して筋緊張を緩和させることがあります。
上記の結果は、これらの臨床効果を説明できる可能性があります。刺激による振動誘発指屈曲反射の抑制は、少なくとも脊髄レベル(脊髄の運動中枢)で生じていると考えられていますが、詳細は不明です。
しかし、ナロキソンで部分的に拮抗されることから、内因性オピオイドが関与することが示唆されています、内因性オピオイドが本抑制にどのように関与しているかは不明ですが、鎮痛に関わる内因性オピオイドが痛みによらない運動反射の抑制にも関与することは興味深いものです。
自原抑制(Ib抑制)は、伸張反射により生じる過度な筋収縮を抑制する反射性の反応でです。
拮抗抑制(相反性Ia抑制)は伸張反射が生じた際、その拮抗筋を反射性に弛緩するというものです。
自原抑制を誘発させるには対象筋の腱受容器(ゴルジ腱器官)あるいは Ⅰb線維を、拮抗抑制では拮抗筋の筋紡錘あるいは Ia群線を興奮させる必要があります。
通電刺激はこれらの受容器や神経線維を持続的に興奮させることにより、自原抑制や拮抗抑制を介して筋緊張を緩和している可能性があります。
ただし、自原抑制では患部筋に、拮抗抑制では患部筋の拮抗筋に刺激を与える必要があります。
自原抑制(Ib抑制)は、伸張反射により生じる過度な筋収縮を抑制する反射性の反応でです。
拮抗抑制(相反性Ia抑制)は伸張反射が生じた際、その拮抗筋を反射性に弛緩するというものです。
自原抑制を誘発させるには対象筋の腱受容器(ゴルジ腱器官)あるいは Ⅰb線維を、拮抗抑制では拮抗筋の筋紡錘あるいは Ia群線を興奮させる必要があります。
通電刺激はこれらの受容器や神経線維を持続的に興奮させることにより、自原抑制や拮抗抑制を介して筋緊張を緩和している可能性があります。
ただし、自原抑制では患部筋に、拮抗抑制では患部筋の拮抗筋に刺激を与える必要があります。
鍼治療が、悪心・嘔吐、食道逆流症、機能性胃腸症、便秘や下痢、過敏性腸症候群の改善に有用であるとの報告があります。
これはいずれも、鍼が消化管機能(胃運動を含めた消化管運動、胃酸分泌)に作用するため、と考えられています。
消化管機能と鍼
消化管運動に対する作用
消化管運動は、自律神経によって調節されています。迷走神経(副交感神経)は消化管運動を亢進させ、内臓神経(交感神経)は消化管運動を抑制します。
動物を対象とした実験では、後肢への刺激は胃運動を広進させ、腹部への刺激は胃運動を抑制させた、との報告があります。
この後肢鍼刺激による胃運動の亢進は、求心路を体性感覚神経、遠心路を迷走神経(副交感神経)とする上脊髄性の体性-内臓反射によるもの、と考えられています。
一方、腹部刺激による胃運動の抑制は、求心路を体性感覚神経、遠心路を内臓神経(交感神経)とする行性の体性 -内臓反射によるもの.と考えられています。また、このような反応は、十二指腸でも同様に報告されています。
ヒトを対象とした研究では、腹部鍼刺激が胃運動を反映する胃の電気活動を抑制した、との報告があります。
この反応は、副交感神経遮断薬(硫酸アトロピン)の投与の影響を受けないことから、動物実験と同様に、求心路を体性感覚神経、遠心路を内臓神経(交感神経)とする脊髄性の体性-内臓反射によるものと考えられています。
そのため、胃運動の亢進による症状については腹部への、胃運動の抑制による症状については四肢への刺激が適していることとなります。
胃酸分泌は、自律神経と消化管ホルモンによって調節されています。迷走神経(副交感神経)は胃酸分泌を亢進させ、内臓神経(交感神経)は胃酸分泌を抑制します。
ガストリンは胃酸分泌を亢進させます。ヒトおよび動物を対象とした研究では、刺激は胃酸分泌を亢進する、もしくは抑制する、との相反する報告があり、が胃酸分泌に及ぼす作用は、その状況や刺激部位により異なるようです。
ヒトを対象とした研究では、下肢への刺激は胃酸分泌を亢進させるという報告があります。また、体幹部下肢への刺激は胃酸分泌を抑制させるとの報告があります。
十二指腸潰瘍患者では、腹部や下肢へ鍼通電を行うことで、胃酸分泌量の低下と腹部症状の緩和が得られたという報告があり、臨床にもつながります。
仙骨部下腹部、下腿部などへの刺激が過活動膀胱による尿や小児夜尿症に有用であるとの報告があります。.これらはいずれも、刺激が蓄尿機能の異常(尿意過後や膀胱容量の減少など)を改善することによると考えられています。
鍼治療による蓄尿機能の改善は、刺激が膀胱の収縮(排尿)を反射性に抑制することにより生じているようでです。
下腹神経(交感神経線維を含む)は、膀胱平滑筋を弛緩させ蓄尿を促します。一方、骨盤神経(副交感神経線維を含む)は、膀胱平滑筋を収縮させ排尿を促します。
排尿を司る排尿中枢には、上位排尿中枢(橋)と下位排尿中枢(仙髄)があります。動物実験において、会陰部への刺激が膀胱の収縮を抑制するとの報告がります。
これは、求心路を会陰部(皮膚と筋)に分布する体性感覚神経、遠心路を骨盤神経とする体性-内藤反射によるものと考えられており、この抑制に下腹神経は関与しません。
この体性-内臓反射による抑制は、会陰部と異なる分節への刺激では観察されなかったことから、脊髄分節性であると考えられています。
一方、動物実験において、会陰部の他に、仙骨部、前肢、後肢への刺激でも膀胱の収縮を抑制するとの報告があります。
これらの抑制の多くは脊髄の切断によって消失したこと、仙骨部の刺激は脳幹部の神経活動を抑制したことからも、主として上位排尿中枢を介する上脊髄性の体性-内臓反射によるものと考えられています。
以上から、鍼刺激は、脊髄分節性もしくは上脊髄性の体性-内臓反射あるいはそれらの両方を介して、膀胱の収縮(排尿)を抑制し、頻尿や小児夜尿症を改善している可能性があります。
鍼灸は、心と身体は不可分で互いに影響し合うとする「心身一如」という考え方に基づいた治療体系です。ストレスによる「心」の疲労は「身体」に影響し、「身体」の疲労は「心」に影響すると考えます。
鍼灸では身体所見から心身の状態を把握し、東洋医学的な診断や治療を行います。近年、鍼灸は治療のみならず、心身の疲労回復や体調管理などリラクセーションを目的に利用されるようになってきました。
事実、鍼灸治療の後に「身体がすっきりした」あるいは「身体が軽くなった」といった感想を述べる患者は多くおられます。
患者の気分を調査した研究では、治療後に「軽やか」「明るい」「のびのび」「暖かい」「楽しい」といった陽性感情が増加したとの報告があります。
高齢者は加齢に伴う身体能力や認知能力および適応能力の低下に加えて、心理・社会的ストレスにより抑うつ状態を引き起こしやすいとされていますが、鍼灸は高齢者の抑うつ症状を改善するとの報告があります。
また、古来より夜泣きや疳虫といった小児の神経症状の治療に、小児鍼が用いられてきたという歴史があります。
このように、鍼灸には精神を落ち着かせるリラクセーション効果や、落ち込んだ気分を改善する効果があると考えられています。
鍼のリラクセーション効果をヒトの脳波で検討した研究があります。
心地よいと感じられる程度の通電刺激を上肢や下肢に与えると、刺激直後からα波が出現します。α波は安静で閉眼かつ覚醒時に見られる脳波であり、覚醒レベルが低下し、心身がリラックスした状態で出現します。
通電刺激によるリラクセーション効果は、通電刺激が脳幹網様体の活動を抑制し、その結果、大脳皮質の覚醒レベルが低下したことによると考えられています。
脳報酬系とは、快感や喜びといった快情動を司る脳の部位をいいます。磁報酬系の賦活による快情動は、リラックスした状態を引き起こす。快情動の発現にはドーパミン神経系が関わることが知られています。
麻酔ラットの背部皮膚に触刺激を加えると、ドーパミン放出が増加するとの報告があります。s皮膚刺激を目的とするいちょう鍼やローラー鍼によるリラクセーション効果には、ドーパミン放出が関与している可能性も考えられます。
生体は、外部環境の変化に対し、それを素早く察知しさまざまな反応を発動することによりホメオスタシス(生体の恒常性)を維持する機構を備えています。
このような機構の中核として神経系、内分泌系、生体防御系は位置づけられており、これらの系は、相互に情報伝達を行うことにより生体の恒常性に寄与しています。
情報伝達の手段は、それぞれの系の細胞が産生する神経伝達物質、ホルモン、サイトカインであり、これらの生理活性物質は、産生・分泌後、それぞれの系の細胞にある受容体で情報を受け、相互の調節が行われています。
鍼灸の刺激は皮膚に存在する受容器を窓口として刺激が入力され、神経伝達に変換されることにより中枢神経を介して、免疫系に刺激が伝達されます。また、神経系から内分泌系を介して免疫系に刺激が伝達されることも考えられます。
一方で、情動ストレスが自律神経や神経系、内分泌系を介して免疫系に影響を与えることも考えられています。
免疫系は、神経系の調節を受けることが知られています。
組織学的にはリンパ球の増殖と分化に関わる一次リンパ器官(胸腺、骨髄)も免疫反応に備えてリンパ球を貯蔵する二次リンパ器官(脾臓、リンパ節、粘膜付属リンパ組織など)といった免疫系器官には自律神経が分布しています。
交感神経、副交感神経系は、ともに免疫細胞を調節することが示されています。
一方、マクロファージや樹状細胞、NK細胞、T細胞、B細胞などの免疫系細胞の表面には、エンケファリン、β-エンドルフィン、サブスタンスPなどの神経伝達物質に対する受容体が発現しています。
ノルアドレナリンやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は免疫系の細胞の活性を抑制し、β-エンドルフィンやサブスタンス P は免疫系細胞の活性化に働きます。
免疫系の細胞は、さまざまな内分泌ホルモンに特異的な受容体を持つことが示されており、血中の閾値を超えた内分泌系ホルモン濃度の刺激により調節されています。
視床下部-下垂体・副腎系が活性化されると糖質コルチコイド(コルチゾール)が放出されますが、糖質コルチコイドはマクロファージや好中球などの食細胞の活性を抑制したり、未熟な胸腺細胞に働き、細胞死(アポトーシス)を誘導することにより、一時的な胸験の萎縮に関わることが知られています。
成長ホルモンやプロラクチンはT細胞の活性を増強し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) はT細胞やマクロファージの活性を抑制します。
自然免疫系の体液性因子には、補体をはじめとして、急性期タンパクや殺菌作用のあるディフェンシンなどの防御因子および炎症性サイトカインであるインターロイキン1(IL-1) やインターロイキン6(IL-6)、 インターフェロンガンマ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-α)などがあります。
鍼刺激により IL-6の産生誘導や IFN-yの産生が起こることが示されています。また、動物実験ではあるが、灸刺激により皮膚において IL-1.IL-6, TNF-α. IFN-αの発現が増強することが示されています。
したがって、灸刺激はマクロファージや樹状細胞など自然免疫系の細胞を介してサイトカイン産生を誘導しているようです。
一方、ウイルス感染の早期に働くことで知られる NK細胞に対する鍼刺激の効果については、マウスおよびヒトにおいて、いずれも刺激後 NK 細胞活性が増強する結果が示されています。
獲得免投系は、細胞性因子として胸腺で産生されるT細胞、骨髄で産生されるB細胞などのリンパ球があり、液性因子としてはB細胞より産生される抗体があります。
刺激によるヒト末梢血中でのリンパ球動態への影響については、これまで多くの報告があるが条件も異なるためか、一定の見解が得られていません。
鍼灸治療において目的の治効を得るためには、刺激部位(局所、脊髄分節、全身)、刺激深度(皮膚、皮下組織,筋・筋膜・骨膜)、刺激の質(機械,熱,電気)、刺激強度(非侵害、侵害)刺激時間などを考慮に入れる必要があります。
鍼灸の治効機序については未だ不明な点が多いです。実際の臨床では、期待した効果が得られない場合や、現状の治効機序では説明できない場合もあります。
しかしながら、常に上記のような考え方をもち、臨床を工夫し積み重ね治療成績を上げていくことが重要です。
また、現代医学と異なる東洋医学的発想に基づいた治療を、上記のような視点で観察することにより、鍼灸の新しい治効機序を発見できる可能性があります、鍼灸がより発展していくためには、現代医学と東洋医学の双方の知識と、治効を得るための確かな技術が強く求められます。
<引用/参考文献>
はり・きゅう理論 医道の日本社
標準生理学 医学書院
カンデル神経科学 MEDSi
臨床のための神経機能解剖学 中外医学社
イラストレイテッド神経科学 丸善出版
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