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こんにちは。
大阪府枚方市のはる鍼灸整骨院です。

当院には肩こりや腰痛だけでなく、

「動悸がする」
「息苦しい」
「眠れない」
「耳が詰まった感じがする」

といった、自律神経症状でお悩みの方も多く来院されます。

病院で検査を受けても異常が見つからない。
それでも本人は確かにつらい。

今回は、そんな40代男性飲食店経営者の方のお話です。

そして、この症例は私自身にとっても改めて「問診の大切さ」を教えてくれた出来事でした。

 

 

突然始まった原因不明の不調

 

患者さんは40代男性。

大阪市内で飲食店を経営されています。

オーナーでありながら現役のシェフでもあり、毎日厨房に立ち続けています。

朝から仕込み。

ランチ営業。

休憩もそこそこに夜営業。

閉店後は片付けや発注作業。

帰宅は深夜になることも珍しくありません。

初めて来院された日のことを今でも覚えています。

少し疲れた表情でこう話されました。

「先生、なんかおかしいんです」

「胸がドキドキするんです」

「息も吸いにくい感じがして」

「夜も眠れないんです」

さらに詳しく伺うと、

・首肩の強いコリ
・動悸
・息苦しさ
・左耳の詰まり感
・喉に何か引っかかる感じ(ヒステリー球)
・不眠
・急な発汗

が続いているとのことでした。

発症から約3か月。

当然ながら病院も受診されています。

 

 

病院では異常なし

 

まず内科。

血液検査では異常なし。

循環器科では心電図異常なし。

耳鼻科では左耳の低音域が少し落ちていると言われたものの、

「年齢相応ですね」

との説明。

漢方薬も処方されました。

しかし症状は変わりません。

「検査では異常ないんですけどね」

患者さんは苦笑いを浮かべます。

ですが、その笑顔の奥には不安が見えました。

身体は確かにつらい。

なのに原因が分からない。

これは非常につらい状況です。

 

 

身体を検査してみる

 

まずは全身の評価から始めました。

バランス機能の評価

ロンベルグ検査
(※目を閉じて立ち、身体の揺れを確認する検査)

では大きく動揺。

片脚立位でも不安定。

継足歩行では偏奇がみられました。

つまり、

平衡感覚を司る前庭系
(※耳の奥にある身体のバランスセンサー)

や小脳系の機能低下が疑われました。

 

 

眼球運動の評価

 

パースート
(※動く目標を滑らかに追う検査)

では途中でサッケード
(※眼球が飛び飛びに動く現象)

が混入。

さらに眼球円運動では右下方視で動揺増大。

これは脳幹・前庭・小脳系のネットワークに負荷がかかっている際によく見られる所見です。

 

 

自律神経の評価

 

血圧は140/90。

やや高値。

さらに左右差がありました。

酸素飽和度も、

臥位
座位
立位

で左右差が認められます。

通常、人間の身体は左右均等ではありません。

しかし自律神経系が過剰に興奮している場合、この左右差が強く現れることがあります。

 

 

感覚検査

 

顔面の痛覚検査では左右差がありました。

特にV3領域。

つまり下顎神経領域です。

一方で触圧覚は正常。

この所見は非常に興味深いものでした。

 

 

筋肉の評価

 

左胸鎖乳突筋

左僧帽筋

左斜角筋

に強い圧痛。

押すと身体が跳ねるほどのジャンプサインが出現しました。

これらの筋肉は呼吸や頚部機能だけでなく、自律神経系とも深く関わります。

 

 

最初の仮説

 

当初考えたのは、

慢性的ストレス

睡眠リズムの乱れ

呼吸機能低下

前庭小脳系機能低下

による自律神経不安定化でした。

飲食店経営という仕事柄、

夜型生活

強い精神的ストレス

長時間労働

という背景もあります。

十分あり得る仮説です。

 

 

施術開始

 

まず胸郭の動きを改善。

呼吸を整えます。

その後、

足底振動刺激
(※足裏から小脳や前庭系への感覚入力を増やす刺激)

を加えながら、

頭部

顔面

四肢末端

へ置鍼。

さらに頚肩部のトリガーポイントへ刺鍼。

機能神経学的アプローチも併用しました。

すると施術後は毎回改善。

「めちゃくちゃ楽です」

「呼吸が入ります」

「耳も軽いです」

しかし。

問題がありました。

 

 

戻ってしまう

 

2〜3日は良い。

しかしまた戻る。

再び動悸。

再び耳閉感。

再び不眠。

これが3回続きました。

ここで違和感を覚えました。

改善反応は出ている。

しかし維持できない。

つまり、

身体のどこかで継続的に神経を刺激している原因

が残っている可能性があります。

 

 

「関係ないと思っていました」

 

3回目の施術後。

私は改めて問診を行いました。

「何か最近変わったことありませんか?」

「どんな些細なことでもいいです」

患者さんは少し考えてから言いました。

「あ、そういえば・・・」

「関係ないと思ってたんですけど」

この一言が転機でした。

「左下の奥歯の歯茎が時々腫れるんです」

「最近は膿みたいなのも出ていて」

私は思わず聞き返しました。

「いつ頃からですか?」

「今回の症状が出る少し前くらいです」

その瞬間、

頭の中でいくつかの点が線になりました。

 

 

口の中を見せてもらう

 

実際に確認すると、

左下奥歯周囲の歯肉が腫脹。

さらに小さな膿疱。

明らかに炎症所見です。

私はすぐに歯科受診を勧めました。

 

 

歯科で判明した真相

 

次回来院時。

患者さんは少し驚いた様子で話されました。

「先生、当たってました」

歯科診断は

根尖性歯周炎。

歯の神経が壊死し、

根の先で感染が起きていたそうです。

その膿が歯肉へ排出されていました。

 

 

なぜ歯の感染で自律神経症状が?

 

ここは少し専門的になります。

歯や歯周組織には三叉神経が分布しています。

炎症が続くと、

侵害刺激
(※痛みを発生させる刺激)

が絶えず脳へ送られます。

特に歯根膜や咀嚼筋からの情報は、

三叉神経中脳路核

という特殊な神経核へ入力されます。

中脳路核は単なる感覚中継所ではありません。

脳幹網様体

前庭核

自律神経中枢

青斑核

視床下部

などと広く連絡しています。

例えるなら、

火災報知器が鳴り続けている建物のような状態です。

実際に大火事ではない。

しかし警報は鳴り続ける。

すると建物全体が緊張状態になります。

今回のケースでは、

歯の感染が慢性的な警報装置として働き、

脳幹レベルで自律神経活動へ影響を及ぼしていた可能性が考えられました。

 

 

歯科治療開始

 

根管治療が始まりました。

すると初回治療後から変化が出ます。

排膿が止まった。

歯肉腫脹が減った。

そして患者さんはこう言いました。

「なんか動悸が減ってる気がします」

 

 

身体は正直でした

 

そこから歯科治療と並行して施術を継続。

4回目。

5回目。

6回目。

回を追うごとに戻りが減少。

耳閉感も軽減。

呼吸も楽になる。

発汗も減る。

睡眠も改善。

10回目には、

「ほぼ気にならないです」

との状態になりました。

歯科治療も計5回で終了。

歯肉の腫れも消失。

排膿もなくなりました。

 

 

改めて感じたこと

 

今回の症例は、

肩こり

耳閉感

動悸

不眠

自律神経症状

の背景に、

歯科領域の慢性感染

が隠れていたケースでした。

もちろん全ての自律神経症状が歯から来るわけではありません。

しかし、

身体は一つにつながっています。

首は首だけ。

耳は耳だけ。

自律神経は自律神経だけ。

そう単純には分けられません。

歯の小さな炎症が、

脳幹へ絶えず警報を送り続け、

結果として全身症状へ発展することもあります。

 

 

まとめ

 

・病院検査では異常なし

・動悸、耳閉感、不眠、自律神経症状が持続

・検査で前庭小脳系と感覚系の左右差を確認

・施術直後は改善するが維持できなかった

・再問診で歯肉腫脹と排膿が判明

・歯科受診で根尖性歯周炎と診断

・歯科治療開始後から症状改善が加速

・歯科治療と鍼灸・機能神経学アプローチを並行し寛解

患者さんは最後にこう話してくださいました。

「まさか歯が関係してるなんて思いませんでした」

実は私も最初から確信していたわけではありません。

だからこそ、

身体の声を丁寧に聞くこと。

そして何度でも問診を繰り返すこと。

その大切さを改めて教えてもらった症例でした。

もし今、

検査では異常がないのに不調が続いているなら、

身体全体を見直してみる価値があるかもしれません。

思いもよらない場所に、本当の原因が隠れていることがあるのです。

 


参考文献

  1. Sessle BJ. Neural mechanisms and pathways in craniofacial pain. Physiol Rev. 2000.
  2. Dubner R, Ren K. Brainstem mechanisms of persistent pain following tissue injury. Trends Neurosci. 2004.
  3. Bartsch T, Goadsby PJ. Increased responses in trigeminocervical nociceptive neurons. Brain. 2003.
  4. Tracey KJ. The inflammatory reflex. Nature. 2002.
  5. Benarroch EE. Central autonomic network. Neurology. 1993.
  6. Borsook D et al. Understanding migraine through the lens of maladaptive stress responses. Neurology. 2012.
  7. Noma N, et al. Mechanisms and management of persistent dentoalveolar pain. J Oral Rehabil. 2021.
  8. Jänig W. Integrative Action of the Autonomic Nervous System. Cambridge University Press. 2006.
  9. Guyton & Hall Textbook of Medical Physiology, 14th Edition.
  10. Kandel ER, Schwartz JH, Jessell TM. Principles of Neural Science, 6th Edition.

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