― 神経学的に見た、もう一つの捉え方 ―
キネシオテーピングは、
スポーツ現場や臨床の場で広く用いられているテーピング手法の一つです。
一般的には、
- テープのギャザーによって皮膚が持ち上がる
- 皮下の圧が下がり、血流やリンパの流れが改善する
といった物理的な説明がされることが多くあります。
実際、
「貼ると楽になる」
「動きやすくなる」
という体感を得ている方も多く、
効果そのものを否定する理由はありません。
ただ一方で、
「なぜ楽になるのか?」という点を
神経学的な視点から整理すると、
別の見え方もできます。
伸縮性テープが体に与えている“確かな入力”
キネシオテープの特徴は、
- 伸縮性がある
- 皮膚に対して持続的に触れ続ける
- 圧は強すぎず、面で入力される
という点にあります。
この条件は、神経学的に見ると
皮膚の触圧覚受容器を安定して刺激する条件と一致します。
皮膚には、
- メルケル盤
- ルフィニ終末
- 毛包受容器
といった機械受容器が存在し、
それらは主に Aβ線維(触圧覚) を介して中枢へ情報を送ります。
キネシオテープは、
これらの受容器に対して
弱く、持続的で、変動のある入力を与え続けていると考えられます。
Aβ入力と「痛みの調整」
Aβ線維からの入力は、
単に「触られた」という感覚を伝えるだけではありません。
脊髄後角では、
- 触圧覚入力(Aβ)
- 痛覚入力(Aδ・C)
が同じ領域で統合されており、
Aβ入力が増えることで、
痛覚信号が相対的に抑制されることが知られています。
これはいわゆる
ゲートコントロール理論として知られる現象です。
さらに近年では、
- 体性感覚野
- 島皮質
- 帯状回
といった中枢での感覚統合を通じて、
- 中脳水道周囲灰白質(PAG)
- 延髄腹内側部(RVM)
などの下行性疼痛調整系が賦活されることも分かってきています。
つまり、
皮膚への穏やかな入力
→ 神経系が「過剰な警戒を下げる」
→ 痛みが調整される
という流れです。
「皮膚が浮いたから」では説明しきれない現象
臨床では、
- 同じ貼り方でも人によって効果が違う
- 貼った直後から変化が出る
- 数時間〜数日で感覚が落ち着く
といったケースが多く見られます。
これらは、
- 皮膚の物理的位置変化
- 血流量の変化
だけでは説明が難しく、
神経系の反応性の変化として捉える方が整合性が高い場面も少なくありません。
キネシオテープをどう捉えるか
このように考えると、
キネシオテープは
-
筋や関節を「矯正する道具」
というよりも、 -
神経に対して穏やかな情報を送り続けるツール
と捉えることができます。
これは決して
これまでの臨床経験や実感を否定するものではなく、
「効いている理由を、
神経学的に整理し直している」
という位置づけです。
まとめ
- キネシオテーピングには臨床的な効果が認められている
- その作用機序は、単純な「皮膚を浮かせる物理効果」だけでは説明しきれない
- 伸縮性テープによる皮膚入力は、Aβ線維を介して神経系に作用する
- 下行性疼痛調整系の賦活により、痛みや緊張が調整される可能性がある
キネシオテープは、
神経にとって「やさしい入力装置」として、
非常に完成度の高い道具なのかもしれません。
出典・参考文献
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