治療中の「ぶり返し」が起こる本当の理由
「少しずつ楽になっていたのに、
ある日また症状が戻ってきた気がする」
継続して治療を受けている方ほど、
この瞬間はとても不安になります。
- 治療が合っていないのではないか
- 振り出しに戻ってしまったのでは
- このまま一生付き合うのではないか
ですが、治療途中のぶり返し=悪化とは限りません。
むしろ、回復過程の中でよく見られる「意味のある反応」であることも少なくありません。
この記事では、
- なぜ治療中にぶり返しが起こるのか
- 良いぶり返し・注意すべきぶり返しの違い
- 不安になったときに知っておいてほしい視点
を、専門性を保ちつつ、できるだけ分かりやすく解説します。
そもそも「ぶり返し」はなぜ起こるのか?
多くの方がイメージする回復は、
痛い → 治療 → 徐々に一直線で良くなる
という「右肩上がりの線」ですが、
神経・脳・自律神経が関わる症状の回復は、もっと立体的です。
回復は「階段状」「波状」に進む
身体は、長い時間をかけて
- 痛みをかばう
- 緊張を高める
- 感覚を鈍らせる
- 自律神経のバランスを崩す
といった代償パターンを作ってきました。
治療とは、
この「慣れきった状態」から新しい正常な状態へ再学習していく作業です。
その途中で、
- 一時的に症状が表に出る
- 以前感じなかった違和感に気づく
- 疲労やだるさとして現れる
といった反応が起こることがあります。
これは、
神経が再び「感じ取れる状態」に戻ってきたサインでもあります。
機能神経学的にみた「ぶり返し」の正体
① 神経可塑性による再編成の過程
脳や神経には、
使われ方に応じて回路を書き換える神経可塑性があります。
治療によって、
- 抑え込まれていた感覚入力
- 眠っていた調整系
- 過剰に働いていた警戒システム
が動き始めると、
一時的に不安定な状態になります。
これは「壊れている」のではなく、
再構築の途中です。
② 自律神経の揺り戻し(ホメオスタシス)
長く続いた不調の状態は、
実は身体にとっては「慣れた状態」でもあります。
そこから抜け出そうとすると、
-
交感神経が一時的に優位になる
-
眠りが浅くなる
-
痛みや不安感が一瞬強まる
といった揺り戻し反応が出ることがあります。
これも、
身体が新しいバランスを探している途中段階です。
「良いぶり返し」と「注意が必要なぶり返し」
ここが一番大切なポイントです。
◎良いぶり返しの特徴
以下のようなケースは、
回復過程として自然な反応であることが多いです。
-
数日以内に自然に落ち着く
-
症状の質が変わっている
-
鋭い痛み → 重だるさ
-
常に痛い → 動いた時だけ
-
-
回復後、以前より戻りが早い
-
全体的には「良い時間」が増えている
-
生活の中で疲労やストレスが増えたタイミングと一致している
この場合、
身体は確実に「前より良い位置」で揺れています。
◎注意が必要なぶり返しの特徴
一方、以下の場合は
施術内容やペースの再評価が必要です。
- 回を追うごとに悪化している
- 痛みの範囲が拡大し続ける
- しびれ・脱力・排尿排便異常を伴う
- 夜間痛が強く、眠れない状態が続く
- 明らかな外傷・発熱・急激な体調変化を伴う
このような場合は、
「我慢」ではなく必ず相談することが大切です。
不安になったときに思い出してほしいこと
回復とは「戻らないこと」ではない
完全な回復とは、
二度と症状が出ない状態
ではありません。
- 出ても回復が早い
- 大きく崩れない
- 自分で調整できる
この状態に向かっていくことが、
現実的で、持続可能なゴールです。
治療は「線」ではなく「面」で効いていく
鍼灸や機能神経学的アプローチは、
- 痛み
- 自律神経
- 感覚
- 情動
- 姿勢や動作
といった複数の層に同時に作用します。
そのため、
一部が先に変わり、別の部分が遅れて追いつく
その「ズレ」が、ぶり返しとして感じられることもあります。
最後に|ぶり返し=失敗ではありません
治療中のぶり返しは、
- 身体が反応できるようになった証拠
- 神経が学習をやり直している途中経過
- 回復のプロセスの一部
であることが多くあります。
もちろん、
すべてを「様子見」で済ませていいわけではありません。
だからこそ私たちは、
- 状態を丁寧に確認し
- 今どの段階にいるのかを共有し
- 必要に応じて方針を調整する
ことを大切にしています。
不安な変化があったときは、
一人で判断せず、遠慮なく相談してください。
身体は、
あなたが思っている以上に「回復する力」を持っています。
参考・出典文献
-
National Institute of Neurological Disorders and Stroke: Neuroplasticity Overview
-
International Association for the Study of Pain. Pain Clinical Updates
-
Sterling M, et al. Neuroplastic changes in pain and recovery. Pain, 2018.
-
McEwen BS. Stress, adaptation, and disease. Ann N Y Acad Sci, 1998.
-
Kandel ER, et al. Principles of Neural Science. 6th ed.