40代男性の肩こり・頭痛・不眠の回復ストーリー

はじめに
こんにちは。大阪府枚方市にある「はる鍼灸整骨院」院長の島井浩次です。
日々、たくさんの患者さんと向き合う中で感じるのは、体の不調の背景には「人生のストーリー」があるということです。
職場環境の変化や家族との関わり方、心の葛藤などが、肩こりや頭痛、不眠といった症状に深く結びついています。
今回は、転職という大きな選択をした40代男性の患者さんのお話をご紹介します。
患者さんの実際の経過を、会話や日常の場面を交えてご紹介します。
転職の理由と家族の想い
「もう少し早く帰れたら…子どもたちの顔が見れるのに」
かつて彼は衣料品メーカーに勤めていました。
残業は当たり前、休日出勤や出張も多く、家族のイベントにはほとんど参加できませんでした。
運動会、参観日、発表会。
子どもたちの成長を近くで見られなかった悔しさが、心のどこかに積もっていきました。
ある日、奥さんが静かに言いました。
「あなたが頑張っているのは分かってる。でも子どもたちは“お父さんが来てくれなかった”って寂しそうに話すのよ。」
胸に突き刺さる言葉でした。
「このままじゃいけない」
そう決意し、全くの未経験ながら物流会社へと転職しました。
新しい職場での試練
物流業界は未知の世界。
運行管理業務は責任も大きく、覚えることも膨大でした。
定時で帰れるはずの職場なのに、精神的には休まらない。
家族との時間を楽しみたいのに、疲れすぎて笑顔が作れない。
夜、彼は妻に漏らしました。
「最近、頭がずっと重たい。夜も何度も目が覚めるんだ。」
奥さんは心配そうに答えました。
「せっかく家族との時間を大事にできる職場に変わったのに、体がもたなかったら意味ないよ。どこかで診てもらったら?」
はる鍼灸整骨院との出会い
初めて来院されたとき、彼の表情は疲れ切っていました。
「肩が鉛のように重い」
「朝から頭が痛い」
「夜は眠れない」
そう訴えられました。
検査を進めると、体のサインは明らかでした。
- 血圧は高めで左右差あり
- 酸素飽和度も左右差を示す
- 瞳孔反射は緩慢(自律神経のアンバランスを示唆)
- 首肩・胸郭の筋肉は緊張し、呼吸は浅い
- 眼球運動の異常(小脳や前庭系の機能低下が示唆される)
私はお伝えしました。
「これは単なる肩こりや疲れではなく、自律神経や脳の機能が乱れている状態です。仕事のストレスや環境の変化が重なった結果ですね。」
治療の選択肢と説明
治療方針は次の2つに絞りました。
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トリガーポイント鍼治療
肩や首の奥深くにある“痛みの引き金点”を刺激し、血流改善と筋肉の緊張を緩める。 -
機能神経学的アプローチ
眼球運動や呼吸を整え、自律神経と脳の働きを回復させる。
私はこう説明しました。
「肩の筋肉を緩めるだけでは根本解決になりません。脳と体をつなぐ神経のバランスを取り戻すことが大切です。」
治療の過程と会話
第1回目
鍼を打った直後、彼は驚いたように言いました。
「肩が少し軽い…呼吸もしやすい気がします。」
第3回目
頭痛の頻度が減り、夜の中途覚醒も少なくなりました。
「朝の目覚めが少しマシになった」と笑顔が戻り始めました。
第5回目
「夜中に起きる回数が減ってきました」
奥さんも「最近、イライラが減った」と気づくようになりました。
第8回目
症状はほぼ消失。
「体が楽になったおかげで、家族と過ごす時間が本当に幸せに感じます」
彼はそう語りました。
現在は月1回のメンテナンスで通院されています。
専門的な解説
① 自律神経の左右差の臨床的意義
- 血圧や酸素飽和度の左右差は、脳幹の延髄外側網様体や交感神経節レベルでの調整不全を示唆します。
- 鍼刺激は迷走神経求心路を介して延髄孤束核に入力し、副交感神経の活動を高め、左右差を是正します。
② 呼吸と心拍変動(HRV)との関係
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浅い呼吸は横隔膜運動の低下を招き、心拍変動(HRV)を低下させます。
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HRVの低下はストレス耐性の低下や睡眠障害と強く関連します。
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鍼や胸郭リリースにより呼吸リズムが整うとHRVが改善し、自律神経の安定が得られます。
③ 眼球運動と小脳・前庭機能
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サッケードやパスートの異常は、小脳片葉や橋網様体の機能低下を示します。
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鍼刺激は中枢血流を改善し、神経可塑性を促進。眼球運動リハビリと併用することで回復効果が高まります。
④ 睡眠障害への鍼治療の作用機序
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鍼刺激は視床下部の視交叉上核(体内時計)や松果体に影響し、メラトニン分泌を調整すると報告されています。
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その結果、概日リズムが安定し、中途覚醒や早朝覚醒の改善が期待されます。
⑤ 心理的側面と脳-心身相関
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転職ストレスにより扁桃体が過活動となると、交感神経が亢進し不眠・頭痛を助長します。
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鍼は前頭前野と扁桃体の連関を調整し、情動安定化に寄与することが神経学的に示唆されています。
家族との時間を取り戻す
彼は今、子どもたちの運動会や参観日に必ず顔を出しています。
「子どもが“お父さんが来てくれた!”と笑って走ってくる。その瞬間がたまらないんです。」
症状の改善は、ただ痛みが消えること以上の意味を持っています。
人生の大切な時間を取り戻すことなのです。
まとめ
この症例から分かることは、
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肩こり・頭痛・不眠は「環境の変化」や「自律神経の乱れ」と密接に関係している
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鍼灸と機能神経学は、筋肉だけでなく脳や神経を整える強力な手段である
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回復は、体だけでなく「家族との絆」を取り戻すことにつながる
ということです。
出典・参考文献
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