〜理学療法士ママの回復ストーリー〜

はじめに
こんにちは。大阪府枚方市にある はる鍼灸整骨院 院長の島井浩次です。
日々、腰痛に悩む多くの方が当院にご相談に来られます。
腰痛は国民病とも呼ばれますが、その中でも「慢性腰痛」は特に厄介です。
「整形外科で異常なしと言われた」
「リハビリやストレッチを続けても改善しない」
「仕事や家事、子育てに支障が出ている」
そんな声を毎日のように耳にします。
今回は、理学療法士として働きながら子育てをしているママのケースをご紹介します。
専門知識を持ちながらも、自分自身の腰痛に苦しんでいた方が、どのようにして回復していったのか。
同じように悩んでいる方にとって、少しでも希望になれば嬉しいです。
プロフィールと背景
患者さんは30代後半の女性、理学療法士。
二人のお子さんを育てながら、病院でフルタイム勤務をされています。
理学療法士として、患者さんに運動や姿勢指導を日々行ってきた彼女。
だからこそ「腰痛は運動やストレッチで改善できる」と信じて、
自分なりにセルフケアをしていました。
ところが現実は違いました。
- 朝起きると腰が重だるい。
- 長時間のデスクワークやカルテ記録で腰がじわじわ痛む。
- 子供を抱き上げると、電気が走るような痛み。
「専門職の自分が治せないなんて…」
「母親なのに、子供を思い切り抱っこできない…」
そんな葛藤と罪悪感が重なり、気持ちまで沈んでいったそうです。
これまでの経過と悩み
彼女はこれまでに、ありとあらゆる手を尽くしていました。
- 自分で考えた運動療法・ストレッチ
- 職場の同僚に相談して受けた治療
- 整形外科での検査(結果は「異常なし」)
- 薬の服用
しかし、どれも「その場しのぎ」でしかありませんでした。
「知識があるのに治せない自分」
「患者さんには運動を勧めているのに、自分は救われない」
専門職だからこそ抱えてしまう深いジレンマ。
「この痛みとは一生付き合っていくしかないのかもしれない」
そんな思いが強くなっていったと言います。
来院のきっかけ
そんな時、インターネットで「慢性腰痛 神経」などと検索し、当院のブログに辿り着かれました。
そこには「腰痛=腰だけの問題ではなく、脳や神経の働きが深く関わっている」という解説が。
「これは私に必要な視点かもしれない」
そう感じて、来院を決意されました。
初回の問診・検査
初めて来院された日のことをよく覚えています。
医療職らしく、症状や経過を的確に説明してくださいました。
検査では次のような所見がありました。
- 呼吸の浅さ:横隔膜の動きが悪く、胸式呼吸が優位。
- 小脳機能低下のサイン:片脚立ちでのバランス保持が不安定。
- 大脳皮質の働き低下:眼球運動(サッケードや追視)がスムーズでない。
- 筋肉の状態:腰部・臀部の筋に強いトリガーポイント。
私はこうお伝えしました。
「腰痛は“腰”だけでなく、脳や神経の働きのアンバランスが関わっています。
だからこそ、運動やマッサージだけでは限界があったのだと思います。」
彼女は深くうなずき、「やっと納得できました」と安心した表情を浮かべていました。
施術内容
施術は大きく3つの柱で進めました。
1. 鍼治療
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腰部・殿筋のトリガーポイントに刺鍼。
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筋肉の緊張緩和と血流改善を目的に。
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腹部や下腿への刺鍼で自律神経の調整も。
2. 機能神経学的アプローチ
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呼吸訓練:横隔膜を意識した腹式呼吸。
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バランス訓練:片脚立ち+視覚入力の組み合わせ。
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眼球運動リハビリ:追視・収束運動。
3. セルフケア指導
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家事の合間にできる簡単なストレッチ。
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仕事中でも実践できる呼吸リセット法。
施術経過
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1回目:「少し腰が軽くなった気がする」
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3回目:朝の腰の重だるさが減り、家事が楽になる。
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6回目:仕事中に腰を気にする時間が減少。
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10回目:子供を抱き上げても痛みが気にならず、公園で遊べるように。
彼女は笑顔でこう話してくれました。
「やっと“母親の自分”を取り戻せた気がします」
専門解説:慢性腰痛の背景
ここで少し専門的なお話をします。
1. 慢性腰痛は脳と神経の問題
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脳が「痛み」を記憶してしまう「痛みの学習」。
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神経が過敏化し、実際以上に痛みを強く感じる状態。
2. 呼吸と腰痛の関係
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横隔膜が硬いと、体幹の安定性が失われる。
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結果として腰部に負担が集中する。
3. 小脳と大脳皮質の役割
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小脳:バランス・姿勢制御。
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大脳皮質:運動の計画と調整。
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これらが低下すると腰痛が慢性化しやすい。
4. 自律神経とストレス
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交感神経優位 → 血流低下・筋緊張 → 痛みが続く。
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鍼治療や神経学的アプローチは、自律神経を整える効果がある。
患者さんの声
「理学療法士としての知識では、どうしても越えられない壁がありました。
でも先生の治療で“腰痛は脳や神経とも関係する”と知り、救われました。
今は子供を思い切り抱っこできます。
家族との時間を楽しめることが本当に嬉しいです。」
まとめ・院長メッセージ
腰痛は「年齢のせい」「仕方ない」と片付けられることが多いですが、決してそうではありません。
特に慢性腰痛は、筋肉や骨だけでなく、脳や神経の働きが深く関わっています。
「専門職だから知識はあるのに治せない」
「母親なのに子供と遊べない」
そんな想いを抱えている方こそ、ぜひ一度新しい視点からのアプローチを体験していただきたいと思います。
あなたの腰痛は、変わります。
そして、笑顔のある毎日を取り戻すことは十分に可能です。
出典論文
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Apkarian AV, et al. "Chronic pain patients are impaired on an emotional decision-making task." Pain. 2004.
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Tracey I, Mantyh PW. "The cerebral signature for pain perception and its modulation." Neuron. 2007.
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Nijs J, et al. "Maladaptive neuroplasticity in chronic pain: causes and consequences." Pain Physician. 2012.
-
Vickers AJ, et al. "Acupuncture for chronic pain: individual patient data meta-analysis." Arch Intern Med. 2012.
-
Moseley GL. "Reconceptualising pain according to modern pain science." Phys Ther Rev. 2007.