神経学・機能神経学・生理学・生化学的視点から

「最近、肩や腰のコリがなかなか取れない」
「呼吸が浅くて疲れやすい」
そんな不調の背景には、ファシア(膜)が関わっているかもしれません。
ファシアとは、筋肉や内臓を包みこむ薄い膜状の組織で、全身を“ボディースーツ”のようにつなぎ、神経や血流にも大きな影響を与えています。
オステオパシーでは、このファシアにアプローチすることで、痛みや自律神経の乱れを整え、体本来の回復力を引き出すことを目指します。
本記事では、神経学・機能神経学・生理学・生化学の観点から「ファシアアプローチの科学的背景」をわかりやすく解説します。
はじめに
こんにちは。大阪府枚方市「はる鍼灸整骨院」院長の島井浩次です。
当院では、鍼灸治療に加えて「機能神経学(Functional Neurology)」や「オステオパシー」の概念を取り入れ、体の不調に多角的にアプローチしています。
近年注目されているのが「ファシア(膜)」です。
ファシアは筋肉や内臓を包む結合組織で、単なる“膜”ではなく、神経・循環・代謝に深く関与する重要な組織です。
本記事では、ファシアに対するオステオパシー的アプローチを、神経学・機能神経学・生理学・生化学的な視点から整理し、どのように体の回復に役立つのかを解説していきます。
1. 神経学的視点:ファシアは「感覚器官」
ファシアには非常に多くの神経終末が存在します。
- ルフィーニ終末・パチニ小体:圧や伸張を感知
- 自由神経終末(C線維):侵害受容や温度を感知し、自律神経反射にも関与
- 筋紡錘や腱紡錘との協働:姿勢や筋緊張を制御
つまり、ファシアは感覚入力の大きな窓口であり、オステオパシー的なリリースは神経系に直接働きかけることができます。
2. 機能神経学的視点:中枢神経系の再統合
機能神経学的にみると、ファシア刺激は脊髄 → 脳幹 → 小脳 → 大脳皮質といったルートで統合されます。
- 脊髄:痛みと触圧のゲート制御
- 脳幹(迷走神経核・孤束核):呼吸や循環を調整
- 小脳:姿勢制御、運動学習
- 大脳皮質や島皮質:身体イメージ、情動調整
局所操作であっても、全身の神経系のバランスを整える作用があるのです。
3. 生理学的視点:循環と疼痛制御
ファシアが硬くなると血流やリンパ流が滞り、乳酸やブラジキニンといった発痛物質が蓄積します。これが「凝り」「痛み」の背景です。
オステオパシーの膜リリースによって
- 微小循環が改善し、老廃物の排出が進む
- 自律神経のバランスが整い、呼吸や心拍が安定する
- 痛みが軽減し、動きやすさが戻る
という変化が期待できます。
4. 生化学的視点:細胞外マトリックスと炎症制御
ファシアの構造はコラーゲン線維・エラスチン・ヒアルロン酸を含む細胞外マトリックス(ECM)で構成されています。
- 高密度化すると滑走不全・痛みが発生
- リリースでヒアルロン酸の粘弾性が回復
- 線維芽細胞の機械刺激によりサイトカイン(TGF-β, IL-6 など)が調整され、炎症や修復に影響
つまり、膜への操作は組織修復や炎症抑制といった分子レベルの反応をも引き起こします。
臨床応用の一例
例えば、長時間のデスクワークで肩や首が重だるい患者さん。
ファシアリリースを行うと、筋肉そのものだけでなく、呼吸の深さが変わり「頭がスッキリする」「目が楽になる」といった変化が見られることがあります。
これは、局所の物理的解放 → 神経系・自律神経系の再調整 → 全身の恒常性回復という流れを裏付けています。
まとめ
オステオパシーの膜(ファシア)アプローチは、
- 神経学:感覚入力の調整
- 機能神経学:中枢統合・自律神経調整
- 生理学:循環・痛み・呼吸改善
- 生化学:炎症・修復過程への影響
といった多階層のメカニズムを通じて、全身に効果を及ぼすと考えられます。
「ただ硬さを取る」というイメージではなく、身体の情報処理システムをリセットし、再統合する作業がファシアリリースなのです。
院長メッセージ
ファシアは「全身をつなぐネットワーク」であり、神経・循環・代謝に直結する生命の要です。
オステオパシー的アプローチを通じて、その働きを回復させることは、痛みを和らげるだけでなく、体全体のバランスを整える大きな一歩になります。
もし慢性的な痛みや自律神経の不調でお困りなら、一度ご相談ください。あなたの身体に眠る「回復力」を引き出すお手伝いをいたします。
参考文献
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Findley T, Schleip R (Eds.). Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Elsevier, 2009.
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Benjamin M. The fascia of the limbs and back – a review. J Anat. 2009.