
こんにちは。大阪府枚方市にあるはる鍼灸整骨院の院長 島井 浩次です。
日常の中で「歩く」という動作は、とても当たり前のことですよね。
買い物へ出かけるとき、家事をしているとき、家族と散歩を楽しむとき、足が健康であれば特に意識することもありません。
ところが、その「歩くこと」自体が痛みを伴い、不安や恐怖に変わってしまったらどうでしょうか。
歩きたいのに歩けない、靴を履くのが憂うつになる、外出さえためらってしまう…。
そんな状態が数か月、いや数年も続くと、心まで疲れてしまいます。
今回ご紹介するのは、まさにそのように「歩くたびに足先が痛む」ことで2年間も悩まれていた50代の主婦の方のお話です。
整形外科や接骨院、さらにはオーダーメイドのインソールまで試したものの改善せず、半ば諦めかけていたときに当院を見つけ、来院されました。
※プライバシー保護のため一部脚色していますが、症状や経過は実際の臨床例に基づいています。
2年間続いた「つま先の痛み」
患者さんは50代の主婦。
「10分以上歩くと、右の親指が靴に当たって痛くなるんです。
いろんな靴を試しても、インソールを変えても、結局変わらなかったんです。」
その言葉には、2年間も続いたつらさと諦めが滲んでいました。
整形外科では骨や関節に異常なし。
接骨院での施術でも改善はなく、オーダーメイドのインソールを作成しても症状は変わりませんでした。
「歩くのが怖い」
そんな思いで、買い物も散歩も心から楽しめなくなっていたそうです。
足の痛みだけではなかった
詳しくお話を伺うと、症状は足だけにとどまりませんでした。
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ふくらはぎの張り感
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踵の痛み
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慢性的な肩こり
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時々ふわっとするめまい
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夜中に何度も目が覚める中途覚醒
「もしかして足の痛みは“単独の問題”じゃないかもしれない」
そう直感しました。
神経機能を詳しく検査すると…
当院では、筋肉や関節だけでなく、神経機能の検査も行います。
その結果、次のような所見が得られました。
感覚検査
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右足の第2~4趾を触っても、全て「中指」と感じてしまう(識別覚の異常)。
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親指や母指球は、わずかな刺激でも強い痛みとして感じる(痛覚過敏)。
小脳・前庭系の検査
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眼球運動でパスートにサッケードが混じる。
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輻輳反射で片眼が寄り切らない。
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ロンベルグ・継足歩行で大きな動揺。
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オルタネイト運動では右の低下。
つまり、足先の痛みは「靴や骨の問題」だけでなく、感覚の処理やバランスを司る中枢神経の働きの乱れが背景にあると考えられました。
どうして足先に痛みが出るのか?
私たちの脳は、外からの刺激を「痛み」か「無害な刺激」かを常に判断しています。
しかし、中枢神経の抑制機能が低下すると
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本来は軽い刺激 → 過剰に「痛み」として認識
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正確な感覚の区別 → あいまいになり誤認識
この状態を「感覚過敏」や「中枢性感作」と呼びます。
足の痛みが2年間も続いたのは、単なる靴ずれではなく、脳の痛み抑制システムが働きにくくなっていたためだったのです。
治療アプローチ
鍼治療
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手足のポイントに刺鍼 → 左右差を整え、感覚入力を調整。
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三叉神経領域(顔面部)に刺鍼 → 中脳のPAGを活性化し、下行性痛覚抑制系を働かせる。
これにより、脳から脊髄へ「痛みを鎮める信号」が流れるようになります。
機能神経学的アプローチ
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眼球運動リハビリで小脳・前庭を刺激。
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バランストレーニングで感覚と運動の統合を改善。
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呼吸調整や自律神経のリセットも併用。
「感覚の誤作動」を整え、再び“正常な痛みの閾値”を取り戻すことを目的としました。
経過と回復のストーリー
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4回目:「歩いても少しラクになった気がします」
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8回目:「10分以上歩いても痛みをほとんど感じません」
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12回目:「気づいたら、痛みのことを忘れて歩けていました」
初めて来院されたときの不安げな表情が、最後には晴れやかな笑顔に変わりました。
「また主人と一緒に買い物や散歩に行けるのが嬉しいです」
とおっしゃった瞬間、こちらまで胸が熱くなりました。
まとめ
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長引く足先の痛みには、靴や骨だけでなく神経の働きが関与している場合がある。
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鍼治療で下行性痛覚抑制を活性化することは、慢性痛の改善に有効。
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機能神経学的アプローチで小脳や感覚統合をリハビリすることで、再発防止にもつながる。
院長からのメッセージ
「原因が分からない痛み」ほど、不安でつらいものはありません。
しかし、その背景には神経の誤作動が隠れていることもあります。
もしあなたやご家族が、
「歩くと足が痛い」
「いろんな治療をしても改善しない」
と悩んでいるなら、ぜひ一度ご相談ください。
諦める前に、“神経から整える治療”という選択肢があることを知っていただきたいのです。
参考・出典文献
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