
はじめに:鍼灸の後、こんな経験はありませんか?
「鍼を受けた翌日、なんだか体がだるい…」
「微熱が出たけれど、風邪ではないようだ」
「眠気が強くて、1日中よく寝てしまった」
鍼灸を受けたことがある方の中には、こんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
実は、これらは悪い反応ではなく、むしろ体が「修復モード」に入ったサインであることが多いのです。
鍼灸には、筋肉や神経を直接刺激するだけでなく、自律神経や免疫系を整える働きがあります。
今回は、鍼灸後に起こる微熱や倦怠感の理由、そして精神薬を服用している方に特有の反応について、少し専門的なお話も交えながらわかりやすく解説していきます。
1. 鍼灸後にだるくなる理由 「修復モード」への切り替え
● 副交感神経がスイッチを入れる
人間の体には「交感神経」と「副交感神経」という2つの自律神経があります。
交感神経は「戦うモード」、副交感神経は「休む・修復するモード」を担当しています。
鍼灸は、この副交感神経を優位にするスイッチを入れる力があります。
施術後に感じる「だるさ」は、実は体が「修復と回復」に集中する状態に切り替わった証拠なのです。
2. 微熱が出るのは“免疫システム”が働いているから
● 体内の掃除屋が活性化する
鍼灸後に起こる微熱は、風邪などの病気とは異なります。
鍼による刺激が皮膚や筋肉のC線維を通して脳や脊髄に伝わると、免疫細胞(マクロファージやNK細胞)が活性化し、軽い炎症反応が起こります。
これは、例えるなら「家の掃除を始めると一時的にホコリが舞い上がる」ようなものです。
古い組織の代謝産物や不要な細胞を掃除するため、免疫が一時的に活発になり、その過程で37℃台の微熱や軽いだるさを感じることがあります。
● 熱が出ることで修復が進む
実は、微熱は体が回復するために必要なプロセスでもあります。
体温が少し上がることで、
- 白血球が働きやすくなる
- 酵素反応が活発になり、組織修復が進む
といった良い作用が起こります。
3. だるさの正体は“省エネモード”
鍼灸後に「やる気が出ない」「眠い」という倦怠感を感じるのは、体が回復にエネルギーを集中させるため、他の活動を抑えているからです。
これは、車で言えば
「アクセルを踏んで走るのをやめて」
「エンジンをアイドリング状態にして燃費を回復させる」
ようなもので、決して悪いことではありません。
4. 好転反応と有害反応の違い
● 好転反応(正常な反応)
- 微熱:37.0〜37.5℃程度
- 倦怠感:1〜2日で改善
- 睡眠が深くなり、数日後に「体が軽い」と感じる
● 有害反応(注意が必要な反応)
- 38℃以上の発熱が続く
- 強い倦怠感が3日以上続く
- 頭痛や動悸など交感神経過活動の症状が出る
5. 精神薬を服用している方はリバウンドが強めに出る?
● 精神薬が神経や免疫に与える影響
精神薬(抗うつ薬・抗不安薬・抗精神病薬など)は、脳内のセロトニンやドーパミン、GABAなどを調整することで、気分や自律神経を安定させています。
しかし鍼灸は体の自然な調整機能を引き出すため、薬で抑え込まれていた神経や免疫が一時的に活発になることがあります。
● よくある反応
- 眠気や倦怠感が強く出る
- 一時的に不安感や情緒の波が増す
- 微熱が長めに続く
● 対策
精神薬を服用している方は、
- 初回は刺激量を少なく
- 体調変化を詳しく観察する
- 強いリバウンドが出たら施術間隔をあける
が大切です。
6. 出やすいツボと施術条件
● だるさや微熱が出やすいツボ
- 百会、神門、内関、太衝、耳介(迷走神経刺激部)
- これらは自律神経への作用が強く、特に副交感神経優位化が強い。
● 刺激条件
- 初回施術、長時間の置鍼、電気鍼など刺激が強い場合
- 全身調整系のツボを多く使う場合
7. 施術を受ける際のポイント
-
最初は少ない刺激から
→「今日は初めてなので、軽めにお願いします」と伝えると良いでしょう。
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だるさが出たら無理をせず休む
→ 体が修復モードに入っている証拠です。
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3日以上強い倦怠感が続く場合は相談する
8. まとめ
鍼灸後に起こる微熱や倦怠感は、体が自分自身を修復するスイッチを入れた証拠です。
特に精神薬を服用している方では、この反応が強めに出ることがありますが、多くの場合は一過性で、体が「整う」方向へ進んでいくサインです。
鍼灸は単に「痛いところを治す」ものではなく、体全体を回復モードに導く力を持っています。
だるさや微熱を感じたときは、「体が今、頑張っているんだ」と思って、
ゆっくり休んでみてください。
参考・出典論文
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