
こんにちは、はる鍼灸整骨院の院長 島井 浩次です。
大阪府枚方市で、鍼灸と機能神経学を組み合わせた施術を行っています。
今日は、長年頭痛や耳の不快感に悩まされていた40代男性大学職員の症例をご紹介します。
▶朝から始まる「重たい一日」
午前5時50分。
カーテンの隙間からうっすらと朝日が差し込む頃、彼は目を覚まします。
まだアラームは鳴っていません。
「……また頭が重い」
首の後ろから肩にかけて、分厚い板を貼り付けられたようなこわばり。
頭の奥にはじんわりとした圧迫感。まるで鉛玉が脳の奥に沈んでいるような感覚です。
隣では小学生の息子が布団を蹴飛ばして眠っており、その向こうでは娘が丸まって眠っています。
子どもたちの寝顔を見ると安心感はありますが、
それと同時に「この重たい感覚、今日はどうだろう…」という不安がよぎります。
▶家族との朝
「お父さん、おはよー」
台所でコップの水を飲んでいると、娘が起きてきます。
「おはよう、昨日の宿題は終わった?」
「うん、でも体育の用意がまだ」
会話をしながらも、首筋の奥がじわじわと締め付けられる感覚が続きます。
それでも表情には出さず、子どもたちを送り出す準備を進めます。
▶閃輝暗点という「警告サイン」
時折訪れる閃輝暗点。
視界の隅に光の粒が現れ、波のように広がっていく。
水面に朝日が反射して揺れるようで、一見きれいにも見えますが、彼にとっては恐怖の合図。
これが始まると数時間後には頭痛の波が押し寄せるとわかっています。
▶職場での違和感
午前9時、大学の事務棟でPCの電源を入れる。
その瞬間から、右後頭部に当たる冷たい風を感じます。
右上の天井にあるエアコン吹き出し口から、直線的に流れてくる冷気。
夏はもちろん、春や秋の肌寒い時期も一日中ここに座ってきました。
午後になると、頭痛や耳の閉塞感が強まり、「まただ…」と机にうつむくこともしばしば。
▶病院での診断
脳神経内科でMRIなどの画像検査を受けましたが、「異常なし」。
診断は片頭痛。痛み止めを処方されました。
耳鼻科でも聴力検査は異常なし。
「気にしすぎないように」と言われて帰宅しますが、症状は続きます。
▶初診の問診で感じた“違和感”
来院時、穏やかな笑顔で椅子に座られた患者さん。
しかし動作の端々で首や肩をかばう様子がありました。
問診で仕事環境を聞き出していくと、
「席の右上にエアコンがあって、右後頭部に冷風が当たります」
この一言で、私の中にピンとくるものがありました。
冷風+長時間座位+視覚負担。
これは後頭部の筋肉、特に後頭下筋群に強い負担をかけ、神経・血流の両面からトラブルを引き起こす条件です。
頭痛だけでなく、耳の症状ともつながる可能性が高いと瞬時に判断しました。
▶検査で確信に変わる
触診で右後頭下筋群・頭半棘筋・肩甲挙筋に強い圧痛。
眼球運動検査では輻輳反射に左右差、パースートでサッケード混入。
小脳機能検査ではロンベルグ・継足歩行で大きな動揺。
聴覚検査(音叉)でも左右差が明確に出ました。
この瞬間、私は「筋肉の緊張と神経機能のアンバランス、そして環境要因が三位一体で症状を作っている」と確信しました。
▶治療開始
まずはトリガーポイント鍼治療で後頭下筋群・頭半棘筋・肩甲挙筋の硬さを緩めます。
同時に機能神経学的アプローチで、小脳・大脳皮質の左右差を整えるための眼球運動トレーニング、バランス訓練を実施。
▶職場環境の改善
施術の合間に「エアコンの風向きは変えられませんか?」と提案。
後日、職場で吹き出し口にシールド(風よけ)を設置してもらったとの報告を受けました。
これで右後頭部への冷風は遮られ、空気が拡散するようになりました。
「午後の頭痛が、ほとんど出なくなりました」
この言葉に、私も心の中でガッツポーズ。
▶治療経過
- 1〜3回目:頭痛頻度が半減、耳閉塞感が軽減
- 4〜5回目:閃輝暗点の回数減少、目の奥の痛みが弱まる
- 6〜7回目:頭痛ほぼ消失、耳鳴りも軽度に
- 現在:月1回のメンテナンスで安定
▶回復後の生活
頭痛がなくなった朝は、目覚めた瞬間から体が軽く感じます。
朝食の準備中も、子どもたちと笑いながら会話できる余裕があります。
職場でも午後のパフォーマンスが落ちず、会議での発言も増えたといいます。
▶まとめ
この症例は、「片頭痛」という診断の裏に、職場環境・筋肉の状態・神経機能のアンバランスが隠れていたケースでした。
鍼治療と機能神経学、そして環境改善の三本柱で大きな改善を得られました。
▶あなたも「当たり前」だと思っている不調はありませんか?
今回の患者さんは、最初は「仕事柄仕方ない」「年齢のせい」と思っていました。
しかし原因を探し、適切なアプローチを行えば、頭痛や耳の不快感は確実に変わることがあります。
特に、
- 朝から首や肩が重い
- 頭痛の前に視界がぼやける
- 耳が詰まったような感覚や耳鳴りがある
- PC作業が多く、職場の空調環境が悪い
こういった状態が続いている方は、もしかすると筋肉・神経・環境の複合的な影響を受けているかもしれません。
「仕方ない」と我慢を続けることは、症状を慢性化させ、回復までの時間を長引かせてしまいます。
早めに環境や身体のバランスを整えることが、改善への近道です。
はる鍼灸整骨院では、痛みや不快感を一時的に和らげるだけでなく、
その背景にある原因を探し出し、根本から整える施術を行っています。
鍼治療と機能神経学を組み合わせたアプローチで、あなたの回復をサポートします。
もし今、「これ、自分のことかもしれない」と思った方は、一度ご相談ください。
小さな一歩が、大きな変化のきっかけになるかもしれません。
参考文献
-
Fernández-de-Las-Peñas C, et al. Myofascial trigger points and migraine. Cephalalgia. 2017.
-
Schwedt TJ. Multisensory integration in migraine. Curr Opin Neurol. 2013.
-
Furman JM, et al. Vestibular migraine. Lancet Neurol. 2013.
-
Bance M. Mechanisms of tinnitus generation. Clin Otolaryngol. 2007.