
はじめに
こんにちは。はる鍼灸整骨院の院長、島井 浩次です。
この記事では、ある50代の男性が抱えていた
「肩こり」「不眠」「動悸」「不整脈」「胃の不快感」「便秘」「めまい」
といった、多彩な症状に悩まされた日々と、当院での回復までの過程をご紹介します。
「病院では異常がないって言われたけど、でも毎日しんどい…」
「このまま何か大きな病気になるんじゃないか…」
そんな不安を抱えている方にこそ、ぜひ読んでいただきたいお話です。
1. ある管理職の「心身の崩れ」
登場人物は、50代の男性、某警備会社の管理職。
部下30名ほどを抱える、現場と本社をつなぐ“中間管理職”という立場。
一見、穏やかな方です。
人当たりもよく、真面目で責任感が強いタイプ。
ですが、その内側はずっと張り詰めていました。
「最初は、肩こりだけだったんです」
肩の重だるさは、いつものことだと我慢していました。
しかし、次第にそれは「眠れない夜」へと変わっていきます。
夜中、何度も目が覚める。
寝つこうとすると心臓がドクドク鳴って落ち着かない。
動悸のせいで逆に目が冴える。
朝になれば、胃がムカムカして食欲がわかない。
便も出にくい。
さらに、最近では歩いているとふらっとするような「めまい」も。
そうして彼は、いくつかの病院を回りました。
内科、循環器内科、胃腸科、脳神経外科…。
結果は、どこも「異常なし」。
2. 病院を回っても、「異常なし」
心配になり、内科、循環器内科、胃腸科、脳神経外科など、複数の病院を受診しました。
しかし、どこへ行っても言われるのは、「特に異常は見当たりませんね」の一言。
血液検査も心電図も、胃カメラも問題なし。
「異常がないのに、なぜこんなにつらいのか」
彼の不安はむしろ大きくなっていきました。
3. 自律神経の“緊張”が続いていた体
当院を訪れたのは、そんな状況が数ヶ月続いた後のことでした。
初診時のカウンセリングで印象的だったのは、「自分の身体が常に張り詰めている感じがする」という一言。
実際に検査をしてみると、以下のような反応が見られました。
-
血圧・酸素飽和度に左右差あり
- 瞳孔の収縮が緩やか
- 手足の冷え
- グル音(腸の蠕動音)が1分間に4回と少ない
- 輻輳反射が起こりにくい(目が寄らない)
- ロンベルグ・オルタネイト・鼻指鼻で左右差
- タンデム歩行で大きな動揺性
つまり彼の体は、「交感神経のアクセルが踏みっぱなし」の状態にあり、副交感神経のブレーキが機能していませんでした。
4. 治療方針 ― 神経の調律から整える
当院では、以下のような治療方針で施術を進めました。
●鍼灸治療
- 首・肩のトリガーポイントに鍼刺激
- 胸部・腹部・耳介部へのアプローチで迷走神経系を活性化
- 横隔膜と肋間筋への施術で呼吸の質を変化
●機能神経学的アプローチ
- 目の動き(輻輳、追跡)訓練で中脳と小脳を活性化
- タンデム歩行やバランストレーニングによる前庭刺激
- 呼吸トレーニングで副交感神経優位の状態を再学習
これらの刺激を通して、神経回路の再統合と可塑性の活性化を目指しました。
5. 治療経過(週1回×12回)
●初期(1~3回目)
- 「手足が温かくなった」「お腹が動いている感じがした」
- 夜中の覚醒が1回に減少
- 食欲が少しずつ戻る
●中期(4~8回目)
- 動悸・不整脈の頻度が大幅減少
- 便通が週に2~3回→毎日へ
- 表情に明るさが戻り、声にもハリが出てくる
●後期(9~12回目)
- めまい感消失
- 「仕事中、午後も集中力が続くようになった」と報告
- ご本人いわく「もとの自分が戻ってきた感じ」
6. 現在のメンテナンス期
治療から3ヶ月が経った今、彼は月に1~2回のメンテナンス通院を続けています。
日常生活では以下のようなセルフケアを継続していただいています。
- 朝と夜の深い腹式呼吸(横隔膜の動きを意識)
- 画面作業の合間に「目を寄せる」輻輳トレーニング
- 胸郭を広げるストレッチ
- 湯船で副交感神経を促す入浴習慣
再発の兆候を早めに察知する感覚も取り戻しつつあり、「以前のように無理を続ける前に、体からのサインに気づけるようになった」と語ってくださいました。
7. 神経が整えば、自然に“体”も変わる
今回のケースで印象的だったのは、症状が「心臓」「胃」「腸」「脳」など一見バラバラに見えて、すべてが自律神経の調整不全という“ひとつの軸”から生じていたという点です。
不眠も、動悸も、胃の不快感も、「そこが壊れている」わけではなく、「神経がその働きをうまく調整できていない」だけだったのです。
これはよく例えられることですが、
神経は“オーケストラの指揮者”。
胃や心臓、腸などは“演奏者”。
指揮が乱れれば、演奏もバラバラになります。
でも、指揮者(=神経系)が整えば、どんな楽器でも本来の力を発揮できるようになるのです。
8. 交感神経と副交感神経 ——「戦う」と「癒す」のバランス
自律神経には2つの側面があります。
●交感神経:アクセル役
- 集中・緊張・戦うときに優位になる
- 心拍・血圧が上昇
- 胃腸の動きが抑制される
- 呼吸が浅く速くなる
●副交感神経:ブレーキ役
- 休息・回復・癒しのときに働く
- 消化・排泄・免疫系が活性化
- 心拍が落ち着き、呼吸が深くなる
交感神経ばかりが優位になると、身体は「戦闘モード」のまま。
それが続けば、やがて燃料切れのように、心も体も限界を迎えます。
9. 姿勢や目の動きも、自律神経に関係している?
はい、大いに関係します。
●輻輳反射(目を寄せる力)が弱いと…
中脳の活動が低下しており、交感・副交感の切り替えがうまくいかなくなります。
●バランス検査でふらつくと…
小脳・前庭系の働きが低下しており、それに付随して自律神経(特に延髄の網様体)にも機能的なアンバランスが見られやすくなります。
身体の姿勢や目の使い方は、“神経の出力状態”を映す鏡のようなものなのです。
10. 最後に 〜あなたの「体の声」に耳を傾けてみませんか?
このブログを読んでくださっている方の中にも、「病院では異常なし。でも調子が悪い」と感じている方がきっといらっしゃると思います。
- 朝、起きるのがつらい
- 夜、眠れない
- ずっと肩こりがある
- 動悸がする、めまいがある
- 胃のムカムカや便秘が続いている
それらの症状は、「あなたの弱さ」ではありません。
むしろ、あなたの身体が一生懸命、サインを出してくれている証拠です。
私たちは、症状を“押さえつける”のではなく、
「なぜそうなったのか?」を一緒に紐解いていく施術を大切にしています。
つらさを一人で抱えず、よければ一度、あなたの“体の声”を聞かせてください。
参考・出典文献
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Benarroch, E. E. (2008). The central autonomic network: functional organization, dysfunction, and perspective. Mayo Clinic Proceedings
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Tracey, K. J. (2002). The inflammatory reflex. Nature
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Sato, A., Sato, Y. (1996). Regulation of gastrointestinal functions by acupuncture. Autonomic Neuroscience
-
Matsumoto, M., et al. (2009). Role of the prefrontal cortex in autonomic control. Japanese Journal of Physiology
-
Scherder, E. J. A., et al. (2005). The neural basis of autonomic dysfunction in dementia. Journal of Neurology