*写真はイメージです

【はじめに】
はじめまして。大阪府枚方市にある「はる鍼灸整骨院」の院長 島井 浩次です。
当院には、「病院では異常が見つからないけれど、つらい症状が続いている」
という方が多く来院されます。
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「お腹がずっと気持ち悪くて、食欲がわかない」
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「頭がフワフワして、眠れない」
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「肩や腰のコリがひどく、体が重い」
これらは「機能性ディスペプシア」や「自律神経の乱れ」と説明されることが多いですが、
「異常がない=問題がない」ではありません。
今回は、そんな悩みを抱えながらも家事や育児をこなし続けた40代・パート勤務・1児の母Aさんの回復ストーリーをご紹介します。
◆朝の慌ただしい時間
Aさんは40代、パート勤務で小学生のお子さんが1人います。
朝6時、まだ外は薄暗い時間に起きてお弁当作りを始めます。
「ママ、今日の卵焼きは甘いのにしてね!」
小さなリクエストに笑顔で答えたいのに、最近は包丁を握る手が重く感じるようになっていました。
お弁当を作り終え、洗濯機を回し、子どもを送り出してようやく一息つく…はずが、
「なんだかお腹がムッと気持ち悪い。」
◆パート先での我慢
Aさんはスーパーの品出しとレジ打ちを担当しています。
「おはようございます」と明るく声を出すものの、
心の中では「早く座りたい…」と願う時間が増えていました。
お客さんと会話をする時も、頭がフワフワして地に足がつかない感じ。
「大丈夫?顔色悪いよ」と同僚に声をかけられても、
「ちょっと寝不足なだけ」と笑ってごまかしていたそうです。
◆家での夕食時
帰宅後も、すぐに夕食の支度。
「今日はハンバーグがいい!」という子どもの声に応えたい気持ちはあっても、
調理中、お味噌汁の匂いを嗅いだだけでムッと気持ち悪くなり、台所で小さくうずくまることもあったといいます。
「ママ、どうしたの?」
「大丈夫だよ」
笑顔で返したものの、食卓では一口二口食べて箸を置く日が増えていました。
◆眠れない夜
夜、布団に入っても眠れず、ようやく寝つけても夜中に何度も目が覚める。
動悸がして、寝返りを打つたびにお腹が気持ち悪い。
「また明日も家事とパートがあるのに…」と思うと余計に眠れない悪循環でした。
【病院での診断】
胃カメラ、血液検査など、必要な検査をすべて受けました。
結果は「異常なし」。
医師からは「機能性ディスペプシアですね」と説明されました。
病気でないことに安堵した反面、
「じゃあ、このつらさは何なの?気のせいって思われているんじゃないか」
そんな思いが募り、インターネットで情報を探しているうちに、当院を見つけて来院されました。
【当院での検査所見と考察】
当院では、まず機能神経学的検査と腹部の触診を行いました。
◆眼球運動の検査
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輻輳反射(寄り目の反応)
初めは寄るが、左眼がすぐに離れて維持できない。
これは、動眼神経核(内直筋支配)の持続的機能が低下している可能性があります。
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パースート(滑動性追従運動)
スムーズに目標を追えず、サッケード(跳ねる補正運動)が混入、オーバーシュートも確認。
脳幹の前庭神経核や視運動系の制御が不安定でした。
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小脳機能検査
指鼻試験・ロンベルグテストなどで大きな異常はなし。
◆腹部所見
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グル音3回/分(通常は5~15回)
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上腹部(胃部)に圧痛あり
これは、迷走神経の機能低下による胃の運動性低下を示唆します。
【施術内容と経過】
◆施術内容
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鍼灸治療
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胃の蠕動運動促進:中脘・天枢・足三里
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肩こり・腰痛改善:僧帽筋・腰方形筋などのトリガーポイント鍼
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機能神経学アプローチ
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輻輳トレーニング(寄り目維持の簡易エクササイズ)
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耳介刺激(迷走神経刺激)
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呼吸指導(胸郭の可動性を高める深呼吸)
◆経過
▶1~5回目
「お腹がグルグル動く感じがします」と実感。
グル音が4回/分に増加、頭のフワフワ感も少し軽減。
▶6~10回目
「ご飯が少し美味しく感じるようになりました」と笑顔が増える。
睡眠も改善し、「途中で起きる回数が減りました」とのこと。
▶11~15回目
「子どもと“美味しいね”って言いながら食べられるのが嬉しいです」と嬉しそうに報告。
頭のフワフワ感はほぼ消失、動悸・下痢もほとんどなくなり、症状は緩解しました。
【家族との会話が戻った日】
Aさんが特に印象的なエピソードを話してくれました。
「前は、夕食の時に子どもが『ママ、これ美味しいね!』って言っても、
『そうだね』と笑うだけで精一杯だったんです」
「でも最近は『ほんとだね、今度一緒に作ろうか』
って言えるようになって…それがすごく嬉しいんです」
お子さんが「ママ、前より元気になったね」と言ってくれた時、
「やっと母親に戻れた気がした」と涙ぐんでいました。
【まとめ】
Aさんのケースは、
「病理的異常がない=問題がない」
ではないことを示しています。
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食欲不振
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頭のフワフワ感
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動悸・下痢
これらは自律神経・脳・内臓の機能的アンバランスが原因であり、
もちろん全ての人に適応するわけではありませんが、
鍼灸や機能神経学的アプローチで十分改善が期待できます。
【参考・出典論文】
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Tack J, et al. Functional dyspepsia. Nat Rev Dis Primers. 2018.
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Mayer EA. Gut–brain interactions in health and disease. Gastroenterology. 2011.
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Lange G, et al. Autonomic dysfunction and functional gastrointestinal disorders. J Neurogastroenterol Motil. 2015.
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Tracey KJ. Reflex control of immunity. Nat Rev Immunol. 2009.