
はじめに——はる鍼灸整骨院より
はじめまして。大阪府枚方市にある「はる鍼灸整骨院」の院長 島井 浩次です。
当院では、首こりや腰痛だけでなく、自律神経や女性ホルモンの乱れにも深く関わる施術を行っています。
今回ご紹介するのは、30代女性歯科衛生士さんの回復ストーリーです。
「首こり」「腰痛」「めまい」「半年間の生理不順」
一見バラバラな症状が、実は一つの神経ネットワークの乱れから引き起こされていたケースです。
1. 「半年も生理が安定しなくて…」——患者さんが来院したきっかけ
「首がガチガチで、頭も痛いし、腰もズーンと重いんです。めまいもして…。それに、生理が半年ぐらいずっと安定しなくて…。」
初診の日、彼女は少し不安そうに話し始めました。
患者さんは30代の歯科衛生士さん。毎日、うつむいた姿勢で患者さんの口腔内を覗き込み、細かい作業を何時間も続ける仕事をしています。
◆半年間の生理不順と婦人科での検査結果
特に気になっていたのは、この半年間の生理不順でした。
「1カ月おきに生理が来なかったり、遅れても2週間以上…。今月は予定日を1週間過ぎていて、さすがに不安で婦人科にも行きました。
でも『子宮も卵巣も異常はありません、ストレスや疲れでしょう』って言われて…。安心したい反面、原因が分からないままは怖いですよね。」
婦人科で重大な疾患が否定されていることは安心材料ですが、「異常なし=何もしなくていい」わけではないのが現実です。
彼女自身も「このまま放っておくのは嫌だ」と思い、当院に来院されました。
◆仕事中の風景
「朝イチの診療から夕方まで、ずっとうつむきっぱなしです。
患者さんの口を覗き込み、ミラーで光を反射させながら細かい器具を操作して…。手元が少しでもズレたら危険だから、緊張しっぱなしなんです。」
歯科衛生士という仕事は、まさに「首と目を酷使する職業」です。
首をほとんど動かさずに同じ角度を長時間保ち、細かな動作を繰り返すため、筋肉も神経も常にストレスを受けています。
◆家庭での様子
仕事が終わると、家ではほとんどソファに横になる生活が続いていました。
「帰ると首と腰が痛くて…。旦那に『最近また疲れてるね』って言われて、お惣菜をお願いすることも増えました。
めまいがする日は、台所に立っててもフワッとよろけそうになるんです。」
2. 検査で見えてきた“症状をつなぐ共通点”
問診後、筋肉や神経学的な検査を行いました。
◆筋肉・姿勢の状態
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首周囲
胸鎖乳突筋、後頭下筋群、斜角筋群が板のように硬く、わずかな圧でも強い痛みを訴えました。 特に後頭下筋群の過緊張は、椎骨動脈血流低下→めまい・頭痛に関連します。 -
腰・殿筋
左大殿筋・中殿筋に強い圧痛。押すと「腰にズーンと響きます」と関連痛を自覚しました。 -
下腹部
下腹部全体が硬く、皮膚と筋膜の滑走性が低下。
「昔から冷えてる感じがあって、押されると苦手です」とのこと。
◆神経学的所見(専門解説付き)
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血圧・酸素飽和度に左右差
交感神経を調節するIML(脊髄中間外側核)の活動に左右差が疑われました。
IMLは脳幹網様体や大脳皮質から抑制を受けていますが、この投射が弱くなると交感神経が過剰に働き、内臓の血流低下やホルモンバランスの乱れを引き起こします。
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眼球運動の異常
左パースート(滑動追跡眼球運動)でサッケード混入、輻輳反射に左右差。
これは視覚運動系を統合する小脳や大脳皮質の機能低下を示唆します。
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感覚野機能低下の可能性
右手の痛覚がやや低下(自覚なし)。左大脳感覚野(頭頂葉)の機能低下が疑われ、自律神経調整にも影響する所見です。
3. 施術方針——“筋肉だけでなく神経ネットワークを再構築”
単に首や腰をほぐすだけでは不十分で、
「脳-自律神経-筋肉のネットワーク」を整える必要がありました。
◆具体的な施術内容
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トリガーポイント鍼治療
胸鎖乳突筋・斜角筋・後頭下筋群、大殿筋・中殿筋に鍼を行い、過緊張を解除。
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下腹部の滑走性改善
鍼と徒手刺激で下腹部筋膜を緩め、内臓-体性反射を介して交感神経過緊張を緩和。
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機能神経学的アプローチ
- 眼球運動トレーニング(パースート・輻輳改善)
- 大脳皮質の感覚入力増加を狙った簡易感覚刺激
→ IMLへの脳幹・皮質からの抑制投射を回復させる狙い。
4. 驚きの変化——「先生、翌日に生理が来ました!」
初回施術の翌日、LINEが届きました。
「昨日の治療の翌日に、生理が来ました!半年間ずっと乱れていたのに…信じられません!」
彼女は驚いた様子でしたが、これは臨床でよく見られる現象です。
施術で首や下腹部の緊張が解け、脳幹からIMLへの抑制投射が回復→交感神経過剰興奮が低下→HPO軸(視床下部-下垂体-卵巣系)が正常化することで起こります。
5. 9回の施術で起きた変化
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首こり・腰痛:ほぼ気にならない程度に
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頭痛・めまい:ほぼ消失
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生理周期:安定し、生理痛も軽減
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睡眠の質:夜中に目が覚める回数が激減
現在は月1回程度、メンテナンスで通院されています。
6. まとめ——首こりと女性ホルモンの意外な関係
首こり・腰痛・めまい・生理不順——これらが同時に現れる背景には、大脳皮質・脳幹・自律神経ネットワークの乱れがあります。
特に、首の過緊張は交感神経過剰興奮を引き起こし、女性ホルモンのリズムにも影響します。
「首が痛いだけ」と思わず、神経学的視点で全体を整えることが重要です。
参考文献
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Budgell B. Autonomic responses to spinal manipulation: a review. J Manipulative Physiol Ther.
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Clark BC, Taylor JL. Cortical and spinal modulation of human motoneuron excitability during motor skill learning.
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Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science.
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Myers TW. Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual Therapists and Movement Professionals.