
はじめに
こんにちは。
鍼灸師として、そして機能神経学の視点から身体の不調に向き合う治療家として日々臨床に立っています、はる鍼灸整骨院の院長 島井浩次と申します。
これまで様々な症状でお困りの方々と向き合い、その中には「え?そんなところが原因だったの?」と驚かれるような、意外なつながりによって症状が引き起こされているケースも少なくありません。
今回ご紹介するのは、「目の奥の痛みがつらくて眼科にも行ったけど、原因がわからなかった」という40代女性のケースです。
実はその痛みの出発点は、“肩こり”から始まり、“足裏”や“睡眠”にも関係していたのです——。
同じような目の奥の違和感、PC作業中のつらさ、肩こりや頭痛、そして何より「病院では異常がないと言われたのにツライ」症状で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
▶目の奥が痛む——そのつらさ、他人には伝わらない
ある日、ご相談いただいたのは、大阪市内でデスクワークをされている40代女性・Kさんでした。
「パソコンに向かっていると、目の奥がズーンと重くなって、涙が出そうになるんです」
「眼科で検査したら眼圧が少し高いって言われたけど、緑内障ではないから様子見って…でも全然ラクにならなくて」
Kさんは仕事で1日8時間以上パソコン作業をされており、帰宅後もスマホやテレビで2~3時間は画面を見る生活。
それに加えて、まだ小さなお子さんがいるため、夜もまともに眠れていない日が続いていました。
そして目の奥の痛みに加えて、慢性的な肩こりや頭痛、軽いめまい、時々耳鳴りもあるとのこと。
一見すると、それぞれがバラバラの症状に見えますが、実はすべてがひとつの“線”でつながっていたのです。
▶「眼」に異常はないのに痛む理由とは?
まず、Kさんの眼科検査結果では、視力や網膜、視神経には異常なし。眼圧が22mmHgとやや高めでしたが、緑内障の所見はなし。
「とりあえず様子を見ましょう」という対応でした。
でも、Kさんにとって「様子を見る」は、何もしない時間が続く苦痛な日々。
ここで重要なのは、「目そのものに異常があるか」だけではなく——
“目の痛みを感じているのがどの神経で、どこからの影響を受けているのか”という視点です。
▶目の奥の痛みの正体——実は“首の奥”にある筋肉が原因?
Kさんの首の後ろ、ちょうど後頭部の下あたりに、ピンポイントで「ズーン」と響くような圧痛がありました。
そこは《後頭下筋群》と呼ばれる、とても小さくて繊細な筋肉の集合体です。
この筋群は、眼球運動と密接に連動していて、パソコンやスマホの画面を長時間見続ける生活では、無意識のうちにガチガチに固まりやすい場所でもあります。
この筋肉に形成されるトリガーポイント(しこりのような刺激過敏部位)は、関連痛として“目の奥”に痛みを飛ばすことがあります。
まるで電線が遠く離れた電球にスイッチを入れるように、首の奥の筋肉の異常が、目の奥の痛みとして現れるのです。
▶肩こり、頭痛、めまい、耳鳴り——すべては連鎖していた
さらにKさんには、斜角筋群(首の側面)や頭板状筋(うなじのあたり)にも強い圧痛がありました。
これらの筋肉が過緊張を起こすと、血流の問題だけでなく、前庭神経系(身体のバランス感覚をつかさどる)や、三叉神経・内耳神経といった“自律神経のハブ”に影響を及ぼします。
その結果、Kさんが訴えていた軽い「めまい」や「耳鳴り」といった症状が起きやすくなるのです。
▶実は足元からも“おかしな信号”が送られていた
Kさんの足を検査したところ、両足ともにアーチの崩れと触覚の反応のズレが見られました。
これにより、本来なら正しく脳に伝わるべき“地面からの情報”が誤って伝達されている状態になっていたのです。
たとえるなら、壊れかけの計器で誤った情報を見ながら飛行機を操縦しているようなもので、脳に入る情報がおかしいので、体のバランスを取るために無理な筋肉の使い方が加速し、首・肩・眼のストレスが増大していった可能性が高いと考えられました。
▶睡眠不足が自律神経を狂わせていた
もうひとつの大きな要因が「慢性的な睡眠不足」でした。
脳の覚醒を調整する“大脳皮質”の働きが落ちると、本来ならリラックス状態をつくり出す“副交感神経”のコントロールが効かなくなり、逆に交感神経(=緊張モード)が過剰に働くようになります。
これにより、目の奥の痛み、肩こり、頭痛、そして眼圧上昇にも関わっていた可能性がありました。
▶施術のアプローチ——“点”ではなく“全体”を診る
Kさんには以下の施術を週1回、計10回実施しました。
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トリガーポイント鍼治療
後頭下筋群、斜角筋、頭板状筋、肩甲挙筋などに対するピンポイント鍼刺激で筋緊張を緩和。
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機能神経学的アプローチ
眼球運動トレーニング、足部からの感覚フィードバック改善、耳介迷走神経刺激などを実施。
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呼吸法・睡眠改善アドバイス
副交感神経を優位にするため、呼吸訓練と就寝前の行動設計を提案。
▶変化の兆し——「目の奥の痛みが、気にならない日が増えた」
施術3回目あたりから、「肩が軽くなって、頭痛が減った気がします」との感想。
5回目の施術後、再度眼科で眼圧を測定すると、なんと数値は16mmHgと正常範囲に。
「以前のようなズキズキした目の奥の痛みは、気づけば感じなくなってました」
「肩や首を触ってもらって“ここが関係してる”って説明を受けて納得しました」
Kさんは笑顔でそう語ってくださいました。
▶まとめ——“目”だけでなく“全体”を見直すことで症状は変わる
Kさんのように「目が痛いから眼科に行った」「異常がないから様子見」
——それだけでは、症状の根本的な改善にはつながらないこともあります。
首の筋肉、足の感覚、睡眠の質、呼吸の仕方——
目に見えないけれど大切な“身体の地図”を一緒に読み解くことで、はじめて症状が軽くなっていく道筋が見えてくるのです。
▶おわりに——誰にもわかってもらえなかった“つらさ”に、光を
もしあなたも「目の奥の痛みがつらいのに、どこに行っても原因がわからない」
と感じていたら——
それは、まだあなたの体の“全体”を見てもらえていないだけかもしれません。
ほんの小さな違和感が、あなたの毎日を少しずつラクにしてくれるきっかけになるかもしれません。
【参考・出典】
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Fernández-de-Las-Peñas C. et al. (2006). “Myofascial trigger points in the suboccipital muscles and forward head posture in tension-type headache.” Headache.
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Hack GD, et al. (1995). “Anatomic relation between the rectus capitis posterior minor muscle and the dura mater.” Spine.
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Malmivaara A. et al. (2008). “Multidisciplinary rehabilitation for chronic headache.” Cochrane Database Syst Rev.
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Brugger, F. (2000). “Functional Neuro-Orthopedic Rehabilitation.” Swiss Med Weekly.