
はじめに
こんにちは。「はる鍼灸整骨院」院長の島井浩次です。
私たちは、鍼灸と機能神経学を組み合わせたアプローチで、なかなか良くならない痛みや不調に対して日々施術を行っています。
その中で、「病院では異常がないと言われたけれど、つらい症状が続いている」と訴える患者さまが非常に多くいらっしゃいます。
今回は、静かな部屋ほど耳鳴りが気になる。
そんな悩みを抱えていた30代男性の症例をご紹介します。
同じような悩みを持つ方にとって、少しでも希望やヒントになれば幸いです。
◆静かな部屋ほど気になる…耳鳴りの悩み
「何も音がしていないのに、耳の奥でキーンと高い音が鳴り続けているような感じがするんです」
そう語ってくれたのは、30代の農業を営む男性でした。
屋外での作業が多いため、普段は自然の音や農機具の音に囲まれているのですが、作業を終えて家に戻り、静かな部屋でひと息ついたときに耳鳴りが強く感じられるようになったそうです。
「夜寝ようとしても、耳の奥の“音”が気になってなかなか寝つけません。
子どもの声や、食器がカチャッと当たる音も妙に耳に響くんです」
このように、日常生活に支障をきたすほどの感覚過敏や不快感を訴えておられました。
◆病院では「異常なし」でもつらい症状
男性は耳鼻科にも通いましたが、聴力検査やMRIなどの精密検査でも「特に異常は見られない」とのことでした。
「検査では問題ないって言われたのに、この耳鳴りは何なんだろうって、どんどん不安になっていきました」
こうしたケースは、非常に多く見られます。
検査で異常が出ない=身体的に健康、とは限らないのが、耳鳴りという症状の難しいところです。
◆首こり、頭痛、そして雑音への敏感さ
詳しく問診と検査を進めていく中で、首や肩の強いこり、頭痛の頻発、さらには騒がしい環境が苦手になってきた、という情報が浮かび上がってきました。
「昔は何ともなかったのに、最近は家族の会話やテレビの音も疲れるようになって…」
まるで、五感のボリュームが勝手に最大にされているような状態。
これは神経系の“過敏化”が進んでいるサインでもあります。
耳鳴の本当の原因は?——鼓膜帆張筋と中枢感作
耳鳴りにはさまざまな原因がありますが、今回のケースで注目すべきは「鼓膜帆張筋(こまくはんちょうきん)」という耳の内部にある小さな筋肉の働きです。
この筋肉は三叉神経によって支配され、音の振動を調整する役割を担っています。
しかし、この筋肉に異常な緊張が生じると、内部の音の感受性が高まってしまい、耳鳴りを引き起こすことがあります。
さらに、長期間の感覚刺激が続くことで脳の“音”の処理センターが過敏になり、中枢感作(central sensitization)と呼ばれる状態が進行していたのです。
◆鍼治療+機能神経学でのアプローチ
男性に対しては、鍼灸と機能神経学を融合させた施術を行いました。
具体的には、
- 三叉神経第3枝に対応する顔面部のポイントへの刺鍼
- 頚部の交感神経節に関連する部位へのアプローチ
- 頸部や顎関節周囲の筋緊張を解くための鍼治療
- 脳幹機能を整える神経学的リハビリ
を組み合わせ、全身の神経バランスを整えていきました。
◆治療の変化——少しずつ「静けさ」が戻ってきた
初回の施術後は「少し首が軽くなった」とのことでした。
3回目の施術あたりから、「耳鳴りの音が少しだけ遠くなった感じがする」と変化を実感され、2ヶ月ほどで「夜の寝つきがだいぶ良くなった」とのお声をいただきました。
3ヶ月が経過するころには、「子どもの声が前より気にならなくなった」「耳鳴りはまだあるけど、気にならない時間が増えた」と、自覚症状の軽減が明確になっていきました。
◆神経の誤作動を“静める”ケア
神経系は、ストレスや筋肉のこり、姿勢の崩れなどさまざまな要因で過敏になります。
そして、その過敏さが耳鳴りという形で現れてしまうのです。
この男性のように、「筋肉の緊張(特に鼓膜帆張筋)」+「中枢神経の過敏さ」が重なった結果、耳鳴りという症状につながっていたと考えられます。
鍼灸では、その両方にアプローチできる点が大きな強みです。
◆さいごに——同じような悩みを持つ方へ
耳鳴りは目に見えない分、なかなか理解されにくく、ご本人が一番つらさを感じている症状の一つです。
もしあなたが
「病院では異常がないと言われたけれど、耳鳴りがつらい」
「静かな場所ほど音が気になる」
「音に敏感になっている気がする」
といったお悩みを抱えているなら、今回のケースが何かしらのヒントになるかもしれません。
そして、そういった症状は「神経の誤作動」であることが多く、適切に整えてあげれば、改善の可能性が十分にあるのです。
あなたが本来の静けさと心の安らぎを取り戻せるよう、当院も全力でサポートいたします。
参考・出典
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Shore, S. E., Roberts, L. E., & Langguth, B. (2016). Maladaptive plasticity in tinnitus—triggers, mechanisms and treatment. Nature Reviews Neurology, 12(3), 150–160.
-
Møller, A. R. (2011). Pathophysiology of tinnitus. Otology & Neurotology, 32(5), 787–789.
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de Ridder, D., Vanneste, S., Weisz, N., et al. (2014). An integrative model of auditory phantom perception: tinnitus as a unified percept of interacting separable subnetworks. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 44, 16–32.