
はじめに
「肩こりがつらいと思っていたら、頭痛もひどくなってきた…」
「最近、耳鳴りまでしてきて、もう限界…」
そんなお悩みを抱えていませんか?
こんにちは。はる鍼灸整骨院 院長の島井浩次です。
当院には、肩こり・頭痛・耳鳴りといった一見バラバラに見える不調を訴えて来られる方が多くいらっしゃいます。
これらの症状、実は“脳のバランス”に大きく関係していることをご存じでしょうか?
今回は、ある女性の実体験をもとに、肩こり・頭痛・耳鳴りがすべて神経機能とつながっていた原因と、その改善のプロセスを分かりやすくご紹介します。
登場人物:35歳女性・Aさんのケース
Aさんは35歳、二人のお子さんを育てながらパートで働くお母さん。
ご来院時には次のような症状を抱えていました。
- 肩こりがひどく、夕方にはズーンと重くなる
- 頭痛は月に数回、特に生理前に悪化
- 耳鳴りがここ1年で出てきた(「キーン」と高音)
- 寝つきが悪く、寝ても疲れが取れない
- 病院では「異常なし」、でもつらい…
「肩こりは仕方ない」と思っていたAさん。
しかし頭痛や耳鳴りまで重なることで、日常生活の質が大きく下がり、育児や仕事にも集中できなくなっていました。
検査で見えた“隠れた原因”
当院では、ただ患部だけを見るのではなく、神経系全体の機能バランスを評価します。
Aさんの検査結果は以下の通りでした。
- 眼球運動に左右差(左眼が外側へスムーズに動きづらい)
- 頸部回旋で右回旋時に可動域制限
- 立位バランステストで右重心傾向
- 皮膚の温度差:右顔面・右上肢でやや低下傾向
- 脈拍がやや高め、呼吸は浅い
これらの所見から見えてきたのが、左大脳皮質の機能低下による神経系の不均衡でした。
なぜ大脳皮質の片側が低下すると不調が出るのか?
ここで少し専門的な話になりますが、できるだけわかりやすくご説明します。
脳の左右にはそれぞれ大脳皮質という“司令塔”があります。
この司令塔は、感覚・運動・内臓の働き、そして自律神経のコントロールにも関わっています。
Aさんの場合、左の大脳皮質(特に前頭前野や頭頂葉など)の活動が、視覚や体性感覚などの片側に偏った刺激入力によって疲弊していました。たとえば、
- いつもスマホを右手で持ち、同じ角度で見る
- 育児中の片側抱っこが習慣
- 職場でも右を向いて人と話す習慣がある
- 寝るときはいつも同じ向きで寝る
こうした日常の「偏り」が、片側の脳に“刺激過多”として蓄積され、やがて逆側の脳の機能を相対的に低下させていたのです。
大脳皮質の低下 → 自律神経の暴走
ここが今回の一番のポイントです。
大脳皮質(特に前頭葉や頭頂葉)は、視床下部や中脳、延髄などの自律神経中枢にブレーキをかける働きを持っています。
Aさんのように左側の大脳皮質が低下すると、その下にある交感神経の制御ルート(IML: 中間外側核)への抑制が外れることで、交感神経が過剰に働いてしまうのです。
結果として起こること:
- 筋肉の緊張 → 肩こり
- 脳血管の収縮 → 頭痛
- 内耳血流の不安定さ → 耳鳴り
- 呼吸の浅さ → 不眠・疲労感
まさにAさんの症状そのものでした。
神経機能を「整える」施術とは?
こうした神経の偏りを整えるため、Aさんには以下の施術を行いました。
① 鍼灸治療(自律神経調整)
- 耳介部の迷走神経領域への鍼刺激
- 後頸部の星状神経節近傍の筋群への調整
- 横隔膜・腹直筋の緊張緩和
これにより、交感神経優位から副交感神経優位への切り替えを促しました。
② 機能神経学的アプローチ
- 眼球運動(左側の追従運動の促通)
- 姿勢感覚入力の左右バランス調整
- 頭部への軽度振動刺激(皮質興奮促進)
- 特定の方向からの視覚刺激で左右の脳活動のバランス調整
ポイントは、刺激の種類と方向を厳密に選ぶこと。これにより左大脳皮質の活動を安全に活性化していきました。
変化の過程と経過
初回~2週間:
- 施術後すぐに「呼吸が楽になった」と実感
- 翌日から少し眠れるようになる
- 肩の緊張が少し軽減
1ヶ月後:
- 「頭痛が来なくなった」と報告
- 耳鳴りの頻度が半分に
- 呼吸が深くなり、夜間の中途覚醒が減る
3ヶ月後:
- 肩こりが「気づけば感じない日も」
- 耳鳴りは月に1〜2回の軽度に
- イライラや不安感も少なくなり「前より笑えるようになった」
神経機能を下げる“日常の習慣”にも要注意
Aさんのように、脳の偏った刺激入力による神経機能低下は、私たちの生活の中に潜んでいます。
例えば:
- スマホ・パソコンの長時間使用
- 偏った姿勢での作業や家事
- 呼吸の浅さ(猫背・口呼吸)
- 睡眠不足や不規則な生活
- カフェインや糖質の過剰摂取
これらは神経を疲弊させ、自律神経のコントロールを狂わせる原因になります。
まとめ:肩こり・頭痛・耳鳴り…全部“脳のバランス”が鍵だった
今回のAさんのケースから分かるのは、次のようなことです。
- 一見バラバラに見える不調も「神経ネットワーク」でつながっている
- 大脳皮質の片側低下が交感神経の暴走を招く
- 日常の“偏り”が慢性症状の根にある
- 鍼灸と神経機能アプローチは、脳の働きを整える有効な手段
もしあなたが、肩こり・頭痛・耳鳴りが同時に起こっていて「もうどうすればいいの?」と悩んでいるなら、身体だけでなく“脳のバランス”に注目してみてください。
最後に
当院では、症状の一部だけを見るのではなく、神経全体の機能とそのつながりを重視しています。
あなたの不調が“つながっている原因”に気づくだけで、回復の道はぐっと近づきます。
参考・出典論文
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Schabrun SM, et al. "Cortical representation of the back is altered in patients with chronic low back pain." Brain. 2010.
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Thayer JF, Lane RD. "A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation." J Affect Disord. 2000.
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Critchley HD. "Neural mechanisms of autonomic, affective, and cognitive integration." J Comp Neurol. 2005.
-
Carrick FR. "Changes in brain function after manipulation of the cervical spine." J Manipulative Physiol Ther. 1997.
-
Tracey KJ. "Reflex control of immunity." Nat Rev Immunol. 2009.