
◆ はじめに 〜どこか不調なのに、どこも悪くないと言われたあなたへ〜
こんにちは。はる鍼灸整骨院 院長の島井 浩次です。
女性にとって毎月訪れる「月経(生理)」は、時に生活を大きく左右することがあります。
「イライラが止まらない」
「涙もろくて自分がコントロールできない」
「立ちくらみや頭痛、動悸がして仕事にならない」
「朝がつらい。体が鉛のように重い」
「病院では“異常なし”と言われるけど、どうしても楽にならない」
そんなお悩みを抱えている方は、PMS(月経前症候群)と自律神経の乱れが重なっているかもしれません。
今回は、そんな不調を抱えていた30代女性の体験をもとに、当院での鍼灸と機能神経学的アプローチによってどのように元気を取り戻していったか、その過程をご紹介します。
◆ 主人公:30代女性・Kさんの物語
Kさんは30代半ばの会社員。IT企業でバリバリ働く一方で、月経前になると体も心も不安定になり、生活に大きな支障が出るようになっていました。
はじめて当院を訪れた日、Kさんはこんなふうに語ってくれました。
「もう自分が自分じゃないみたいなんです。何もしてないのにイライラして、涙が出てきて…。人と話すのも疲れて、でもちゃんと仕事はしたいんです。病院では異常なしって言われるけど、全然“正常”な感じがしなくて…」
Kさんの表情はどこか浮かない、曇り空のようでした。
体のどこかが具体的に痛いわけでもない。だけど、常に重だるく、心も不安定。
PMS(Premenstrual Syndrome)の診断は受けていましたが、それだけでは説明しきれない症状があったのです。
◆ 訴えていた主な症状
Kさんが抱えていた不調は、以下のようなものでした。
- 月経前の強いイライラ、不安感、涙もろさ
- 頭痛、肩こり、背中の張り
- 朝の起床困難(特に排卵後〜生理前)
- 月経前〜生理中のめまい、立ちくらみ
- 疲労感と集中力の低下
- 頻繁な動悸と冷え
- 胃腸の不調(食欲低下と便通の乱れ)
どれも、PMSの症状に含まれる可能性がありますが、同時に「自律神経の失調」でもよくみられるものです。
◆ なぜ、PMSと自律神経の症状は重なるのか?
PMSの不調は、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の変動が主な原因とされています。
このホルモンバランスは、実は脳の「視床下部」と「下垂体」という場所が大きく関与しており、ここは自律神経の中枢でもあります。
つまり、「ホルモンバランスが乱れる」=「自律神経も乱れやすくなる」という構造的なつながりがあるのです。
さらに、ストレスや過労、睡眠不足といった外的要因も加わると、自律神経はまるで“くたびれた指揮者”のようになり、全身の調整が効かなくなっていきます。
◆ 検査と評価:機能神経学的アプローチの視点から
Kさんには、以下のような評価を行いました。
- 眼球運動の左右非対称(視覚の自動調整力の低下)
- バランステストでのふらつき(小脳、前庭系の機能低下)
- 呼吸の浅さと片側の肋骨の動きの低下
- 反射テストでの左右差(下行性調整系・交感神経抑制系)
- 交感神経の過活動(特に青斑核の緊張反応)
- ATP産生低下の兆候(皮膚温低下、爪の色変化、疲労回復遅延)
Kさんの脳と神経の調整力は、まるでフル稼働してヘトヘトになったスマートフォンのような状態でした。
充電が追いつかず、各機能がうまく作動していなかったのです。
◆ 鍼灸+機能神経学の施術内容
Kさんの施術では、以下を中心に行いました。
◎ 鍼灸治療:
- 頭部と腹部の浅刺で三叉神経、迷走神経への刺激
- 腰部と仙骨周囲の温灸で骨盤内循環の改善
- 手足のツボ(神門、太衝、三陰交)で自律神経のバランスを調整
◎ 機能神経学的アプローチ:
- 眼球運動と前庭刺激による脳幹と小脳の調整
- 呼吸再学習と横隔膜の可動域拡大(ATP産生支援)
- 体性感覚刺激での脳皮質活性化(特に前頭葉・帯状回)
- 迷走神経刺激(耳介刺激・呼吸誘導)
まるで、「脳のスイッチを入れ直す」ようなアプローチでした。
◆ 変化の経過:3ヶ月での変化
Kさんは週1回の施術を3ヶ月継続され、以下のような変化が見られました。
1ヶ月目:
- 睡眠の質が改善
- イライラのピークがやや緩やかに
- 朝の気分の落ち込みが軽減
2ヶ月目:
- 生理前の体調の波が小さくなる
- 胃腸の不調と動悸が改善
- 仕事後の疲れが翌日まで残らないように
3ヶ月目:
- PMS症状が軽く、周囲とのコミュニケーションもスムーズに
- 「毎月の不安」がなくなり、自信が戻ってくる
- 「また頑張ろう」という気持ちが湧いてきた
◆ 本人の声:「生理が怖くなくなりました」
Kさんの言葉が、何よりも印象的でした。
「あんなに毎月ビクビクしていたのがウソみたいです。まるで“雲の上にいた心”が地上に戻ってきたみたい。生理があるのは変わらないのに、苦痛じゃなくなったんです」
◆ 最後に 〜体と心の声を“翻訳”してあげること〜
PMSも自律神経の乱れも、体が「ちょっと無理してるよ」と教えてくれるサインです。
現代の女性は、仕事・家庭・人間関係の中で、本当に多くの役割を担っています。
でもその分、気づかないうちに“脳と神経のキャパシティ”を超えてしまっていることもあるのです。
鍼灸と神経学的アプローチは、そのサインを「翻訳」し、本来の調和ある状態に戻すサポートをしてくれます。
◆ 同じようなお悩みの方へ
もしこの記事を読んで、「私もそうかも」と思った方は、どうか一人で抱え込まないでください。
あなたの体も心も、少しだけ“整えるきっかけ”を探しているだけかもしれません。
◆ 参考・出典論文
-
Freeman, E. W. (2003). Premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder: definitions and diagnosis. Psychoneuroendocrinology, 28, 25–37.
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Nagata, C., Hirokawa, K., Shimizu, H. (2004). Association of physical activity and menstrual cycles with premenstrual symptoms. Epidemiology, 15(5), 543–550.
-
Tracey, K. J. (2002). The inflammatory reflex. Nature, 420(6917), 853–859.
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Thayer, J. F., & Lane, R. D. (2000). A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation. Journal of Affective Disorders, 61(3), 201–216.
-
Porges, S. W. (2007). The polyvagal perspective. Biological Psychology, 74(2), 116–143.