「耳鳴りだけじゃない、下あごや耳の違和感が気になる…」そんな方へ

耳鳴りといえば、音がないのに「キーン」「ジー」と聞こえる不快な症状として知られています。
しかし、実際にはそれだけでなく、耳の周囲や下あごのしびれ・違和感・痛みなどが同時に起きている方も少なくありません。
こうした複合的な症状の背景には、「三叉神経」という大切な神経の関与があります。
今回は、「耳鳴り」と「三叉神経第3枝(V3:下顎神経)」の関係を、神経の仕組みと鍼灸の視点からわかりやすく解説していきます。
三叉神経とは?──顔面感覚の大黒柱
三叉神経(さんさしんけい)は、脳から出て顔の感覚を支配する最大の感覚神経です。その名の通り、以下の3本の枝に分かれます。
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第1枝:眼神経(V1) → 額・目のまわりの感覚
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第2枝:上顎神経(V2) → 頬・上あご・鼻の感覚
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第3枝:下顎神経(V3) → あご・耳の周囲・下唇の感覚 + 咀嚼筋の運動
この第3枝(下顎神経)は、知覚だけでなく咀嚼筋(咬筋・側頭筋・翼突筋)を動かす運動神経でもあるのが特徴です。
なぜ耳鳴りと「下あご」が関係するのか?
実は、耳鳴りは「聴覚神経」だけの問題ではありません。
耳鳴りに関与する中枢神経(脳幹部の「蝸牛神経核」)と、三叉神経の「脊髄路核」は非常に近くに存在しています。
感覚の“クロストーク”が起きる
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内耳や咀嚼筋、耳のまわりの感覚情報は、同じようなルートで脳に入っていく
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三叉神経第3枝が過敏になると、脳幹レベルで蝸牛神経核にも影響を及ぼし、耳鳴りが悪化したり変化したりする
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その結果、「耳鳴り+あごや耳のしびれ・圧迫感」が同時に出現するのです
このような神経間の過敏な相互作用を、「感覚間相互可塑性(cross-modal plasticity)」と呼び、慢性的な耳鳴りの持続に関与していることが近年の研究でも報告されています。
こんな症状ありませんか?──V3の異常を疑うチェックリスト
✅ 耳鳴りと同時にあごがだるい・しびれる
✅ 咀嚼すると耳の奥が響く・音が変わる
✅ 下唇や耳前部に違和感・鈍さがある
✅ 歯科で異常がないと言われたが違和感が残る
✅ 顎関節症の治療後から耳鳴りが始まった
こういった症状がある方は、「三叉神経第3枝」の異常が関係している可能性が高いです。
鍼灸と機能神経学からのアプローチ
【神経系を整える鍵:求心性刺激】
鍼灸には、筋肉や経穴に刺激を与えることで末梢から脳へと情報(求心性刺激)を届け、神経の過敏性を調整する働きがあります。
特に、V3に関与する以下の筋やツボに注目します:
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側頭筋・咬筋・外側翼突筋:下顎神経の運動枝に支配される
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翳風(えいふう)・聴宮・頬車:V3や耳周囲の神経と深く関わる経穴
鍼灸刺激により、筋緊張の緩和だけでなく、脳幹レベルでの神経の再統合・再調整が促されます。
【左右の感覚バランスを整える】
三叉神経系の左右差や、視覚・聴覚・体性感覚との情報処理のアンバランスが耳鳴りの増悪因子になることもあります。
そのため当院では:
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神経系の評価(視覚・前庭・体性感覚の左右差チェック)
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機能神経学的刺激(呼吸リズム、体幹入力、視覚誘導など)
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鍼灸による求心性刺激のバランス調整
といった多角的なアプローチを組み合わせて、耳鳴りとその周囲症状の改善をめざします。
実際の症例紹介:耳鳴り+あごの違和感
【40代男性:長時間の会話と食いしばりで悪化した耳鳴り】
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主訴:左耳の「ジーッ」という耳鳴り+下顎の違和感
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問診で:PC業務+人前で話す仕事→食いしばり強く、左咬筋・外側翼突筋に圧痛
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アプローチ:咬筋と側頭筋への鍼通電、顎関節周囲のモビリゼーション、体性感覚入力の調整
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結果:初回から「耳鳴りの音が遠くなった感じ」、4回目でほぼ消失、違和感も改善
まとめ:耳鳴りは“耳”だけの問題ではない
耳鳴りに悩む方の中には、「耳以外」の症状も抱えているケースが多くあります。
特に三叉神経第3枝の支配領域にある、耳の周囲・下あご・こめかみ・咀嚼筋などの異常は、耳鳴りと深く関係しています。
「ただの耳鳴り」とあなどらず、神経の仕組みと感覚のバランスから身体全体を評価することが、根本的な改善への第一歩です。
当院ではこうした方に最適です
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耳鳴りの原因がはっきりしない
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顎関節症・食いしばりもある
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あごや耳まわりに違和感がある
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投薬や耳鼻科で改善が見られなかった
脳と神経の調整からアプローチする「現代鍼灸」と「機能神経学」で、耳鳴りに悩む日常を変えてみませんか?
参考文献
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Shore SE, Wu C. Mechanisms of noise-induced tinnitus: insights from cellular studies. Neuron. 2019.
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Dehmel S, et al. Connections between the auditory and somatosensory systems. Front Syst Neurosci. 2008.
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Biesinger E, et al. Tinnitus modulation with temporomandibular disorders. HNO. 2010.