腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板が突出して神経を圧迫し、腰痛や下肢のしびれ・痛みを引き起こす疾患です。

トリガーポイント鍼治療は、筋肉内に存在する「トリガーポイント」をターゲットにした治療法で、腰椎椎間板ヘルニアによる痛みや機能障害を改善する効果が期待されています。

以下では、この治療法の機序について詳しく解説します。

 

1. トリガーポイントとは

トリガーポイントとは、筋肉や筋膜の中に形成される、過敏な「硬結」または「こり」のような状態を指します。

この部位は圧迫すると強い痛みを感じ、痛みが離れた部位に広がる（関連痛）特徴があります。腰椎椎間板ヘルニアでは、以下のような理由でトリガーポイントが形成されます。

 

・筋肉の過緊張（椎間板の問題に伴う二次的な筋肉負担）

・姿勢の崩れや運動不足による血流障害

・神経圧迫による筋肉の反射的な収縮

 

トリガーポイントは痛みそのものの原因となるだけでなく、周囲の筋肉や神経に影響を与え、ヘルニアの症状を悪化させる要因となります。

 

トリガーポイント鍼治療は、鍼を直接トリガーポイントに刺入して刺激を与えることで、以下の効果をもたらします。

 

(1) 筋収縮の解除

トリガーポイントがある筋肉は局所的に収縮した状態（筋スパズム）にあります。

鍼による刺激は、この異常な収縮を解消し、筋肉をリラックスさせる効果があります。

 

(2) 血流の改善

トリガーポイント周囲では血流が悪くなっていることが多いです。

鍼刺激によって筋肉が緩むと血管が拡張し、酸素や栄養が供給されることで代謝産物が排出され、組織の修復が促進されます。

 

(3) 痛みの信号伝達のリセット

鍼がトリガーポイントを刺激すると、一時的に痛みを誘発することがありますが、その後、神経の興奮が鎮まり、痛みの感覚が和らぎます。

これは「神経反射」を利用した治療効果の一つです。

 

3. トリガーポイント鍼治療の具体的な効果

腰椎椎間板ヘルニアに対してトリガーポイント鍼治療が有効である理由を以下に説明します。

 

(1) 局所筋肉の緊張緩和

ヘルニアによる痛みは、腰部や臀部、下肢の筋肉が反射的に硬直することで悪化します。

トリガーポイント鍼治療は、これらの筋肉の緊張を緩めることで、神経の圧迫や牽引を軽減します。

 

(2) 関連痛の軽減

トリガーポイントは、ヘルニアによる症状を模倣するような関連痛を引き起こします。

例えば、腰部の筋肉にあるトリガーポイントが下肢に痛みを放散する場合があります。

鍼治療によりこれらのポイントを解消することで、ヘルニアの症状と似た痛みも軽減されます。

 

(3) 神経圧迫の間接的な軽減

トリガーポイント治療によって筋肉が緩むと、神経にかかる圧迫が間接的に減少します。

特に梨状筋（坐骨神経を通る部分）や多裂筋といった深層筋にアプローチすることで、神経症状が改善します。

 

(4) 筋膜の柔軟性向上

筋膜は筋肉を包む結合組織で、トリガーポイントの存在によって硬くなり、痛みや動きの制限を引き起こします。

鍼治療による刺激は筋膜を柔軟にし、正常な機能を回復させます。

 

4. 痛みの感覚を抑える神経学的メカニズム

①ゲートコントロール理論

鍼刺激は脊髄での痛み信号の伝達を抑制する「ゲート」を閉じる働きをします。

これにより、トリガーポイントからの痛み信号が脳に到達しにくくなります。

②内因性鎮痛物質の分泌

鍼刺激によってエンドルフィンやセロトニンが分泌され、これらの物質が痛みを抑える効果を発揮します。

③筋肉内の痛み受容器のデセンスタイゼーション

鍼がトリガーポイントを刺激することで、筋肉内の過敏になった痛み受容器の感度が低下します。

その結果、慢性的な痛みが軽減します。

 

5. 治療の流れと注意点

トリガーポイント鍼治療は、以下の手順で行われます：

①トリガーポイントの特定

患者の痛みの訴えや触診を通じて、痛みを引き起こしているトリガーポイントを特定します。

②鍼の刺入

トリガーポイントに正確に鍼を刺入し、適切な刺激を与えます。この際、「局所的な攣縮反応（Twitch Response）」が見られることがあり、これが治療効果の指標とされます。

③鍼の留置または操作

鍼を一定時間留置したり、微細な動きを加えることで、筋肉の緊張をさらに緩めます。

④反応評価

治療後、患者の痛みの変化や動きやすさを確認します。

 

注意点

刺激が強すぎると筋肉痛のような感覚を残すことがありますが、通常は数日で改善します。

深層の筋肉をターゲットとするため、経験豊富な施術者による正確な技術が求められます。

 

6、トリガーポイント鍼治療のメリット

即効性：痛みや筋緊張の改善を迅速に感じられる場合が多い。

根本治療：痛みの原因に直接アプローチするため、再発防止が期待できる。

非薬物療法：副作用が少なく、安全性が高い。

 

まとめ

トリガーポイント鍼治療は、腰椎椎間板ヘルニアによる痛みや機能障害に対して、効果的かつ安全な治療法です。

筋肉の緊張緩和、関連痛の軽減、神経圧迫の間接的な解消といった多面的なアプローチによって、症状を根本から改善することが可能です。

この治療法は、患者の生活の質（QOL）向上に寄与する重要な手段と言えるでしょう。