~眠れぬ夜にさようなら。カラダと心のリズムを取り戻すまで〜

こんにちは。「はる鍼灸整骨院」の院長、島井浩次です。
日々、多くの患者さまが「原因不明の不調」に悩みながら来院されます。
肩こり・めまい・動悸・不眠・食欲不振…
その裏に潜むのが「自律神経の乱れ」という“見えない敵”です。
今回ご紹介するのは、まさにその敵と向き合い、乗り越えた40代男性の物語です。
彼の回復ストーリーを通じて、同じように悩んでいる方に「希望」と「手がかり」を届けたいと思います。
1,見えない不調に襲われて
「最初はただの疲れだと思っていました。」
そう話すのは、今回ご協力くださった高橋さん(仮名・47歳)。
大阪市内のIT企業に勤務する中間管理職。
責任ある立場に就き、日々タスクに追われながらも、家族を支えるよき父親でした。
異変はある日突然やってきました。
「朝起きると、心臓がバクバクしていて、息がしづらかったんです。なのに、病院で検査しても“異常なし”。」
それでも症状は悪化していきました。
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寝ても疲れが取れない
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夜中に何度も目が覚める
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胃腸が弱り、食欲が落ちる
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些細なことでイライラし、自己嫌悪に陥る
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首肩が常にこわばり、頭がボーッとする
「自分でも、自分の体じゃないみたいでした。」
2,不調の正体は「自律神経の乱れ」
複数の医療機関を受診した末、ある心療内科で「自律神経失調症の可能性がある」と告げられました。
自律神経は、心拍・呼吸・消化・体温など、私たちが意識しない体の働きをコントロールする司令塔。
そのバランスが乱れると、「機械は壊れていないのに動かない車」のように、全身がうまく機能しなくなります。
ではなぜ、自律神経は乱れるのか?
原因① 慢性的なストレス
交感神経が「闘争モード」に入りっぱなし。ブレーキ(副交感神経)が効かない。
原因② 睡眠の質の低下
本来、睡眠中に副交感神経が優位になりますが、眠れないことでリズムが壊れます。
原因③ 姿勢と呼吸の悪化
パソコン作業やスマホの使用で前かがみになると、呼吸が浅くなり、迷走神経の活動が低下します。
原因④ 感覚刺激の過多と不足
視覚や聴覚の過剰入力(ブルーライト・ノイズ)、逆に体性感覚や前庭感覚の不足が、脳のリズムに混乱をもたらします。
3,藁をもすがる思いで…
「このままじゃ壊れると思いました。」
そんなとき、知人の紹介で当院に来院された高橋さん。
顔色は青白く、声にも覇気がなく、まるで電池の切れかけたロボットのようでした。
初回の検査で判明したのは以下のような状態です。
- 脳幹反射の低下(視覚刺激や前庭刺激への応答が鈍い)
- 横隔膜の動きが浅く、呼吸が胸式中心
- 背骨の柔軟性の低下(特に胸椎と頸椎)
- 耳介(耳)の温度左右差 → 交感神経の過活動を示唆
- 血圧高値で左右差あり→交感神経の抑制機能の低下
- 酸素飽和度の低値→交感神経の抑制機能の低下
4,“整える”という治療のはじまり
当院では、単に「マッサージ」や「針を刺す」だけではなく、脳と神経の働きを整える“機能神経学”に基づいたアプローチを行います。
【治療プログラム例】
◎ 耳介への鍼刺激
→ 迷走神経を介し、脳幹に副交感神経の入力を届ける。
◎ 呼吸筋(横隔膜・肋間筋・頸部)への刺針
→ 呼吸パターンを修正し、脳への酸素供給とリズムの正常化を促す。
◎ 頭部・眼球運動トレーニング
→ 前庭小脳や視覚野を活性化し、大脳皮質の機能を“起こす”。
◎ 姿勢・体性感覚刺激
→ 足部・体幹のセンサーを通じ、内臓と脳の協調を回復。
◎ 自宅でのセルフケア指導
→ 入浴・照明・音・スマホ制限など、「五感のリセット法」をレクチャー。
5,少しずつ、心と体が“つながる”
「最初の5回くらいまでは、正直“変わらないな”と思っていました。」
高橋さんは振り返ります。
しかし、6回目の施術後、夜中に一度も目が覚めずに朝を迎えたことがきっかけで、彼の回復は加速します。
- 「朝の心拍数が落ち着いてきた」
- 「胃の調子がよくなって、食事がおいしい」
- 「日中の集中力が戻ってきた」
- 「以前より、家族に対して穏やかになれた気がする」
私たちの身体はまるで「オーケストラ」。
指揮者(大脳皮質や脳幹)が混乱していると、どんなに楽器(臓器)が元気でも調和が取れません。
彼の体は、まさに“調律”を取り戻しつつありました。
6,3ヶ月後、別人のような笑顔
治療開始から約3ヶ月。
高橋さんは、見違えるほど表情が柔らかくなっていました。
「本当に、“自分を取り戻した”って感じです。」
「今思えば、あれは“病気”じゃなくて、“脳が混乱していただけ”だったのかもしれません。」
もちろん今でもストレスはゼロではありません。
ただ、“自律神経のゆらぎ”を感じたとき、自分で立て直す力がついたこと。
それが何よりの財産だと、高橋さんは語ってくれました。
7,誰もが“整える力”を持っている
高橋さんのように、「病院では異常なし。でもつらい。」
という方は少なくありません。
それは、血液や画像では“機能のゆらぎ”を捉えきれないからです。
でもご安心ください。
- 自律神経は“可塑性”がある
- 鍼灸や感覚刺激は“脳にフィードバック”を与える
- 環境の整え方で、体内時計や神経のリズムは変えられる
つまり…
あなたのカラダは、ちゃんと「治す力」を持っているのです。
最後に:あなたも「自律神経リズム」を取り戻しませんか?
現代社会は、まさに「情報とストレスの洪水」。
しかし、その波に溺れない“泳ぎ方”は、体がきちんと覚えています。
- 最近よく眠れない
- 動悸・息切れ・だるさが続く
- 頭痛やめまいが慢性化している
- 病院では異常なしと言われた
- でも、つらい…
そんな方は、どうかご相談ください。
高橋さんのように、「不調のトンネル」の出口は、必ずあります。
その一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか?
出典・参考文献
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Thayer, J. F., & Lane, R. D. (2000). A model of neurovisceral integration in emotion regulation and dysregulation. Journal of Affective Disorders, 61(3), 201–216.
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Tracey, K. J. (2002). The inflammatory reflex. Nature, 420(6917), 853–859.
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Napadow, V., et al. (2012). Autonomic neuroimaging in acupuncture: evidence for limbic-paralimbic-neocortical network modulation. Human Brain Mapping, 33(3), 623–637.
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Porges, S. W. (2009). The polyvagal theory: New insights into adaptive reactions of the autonomic nervous system. Cleveland Clinic Journal of Medicine, 76(Suppl 2), S86–S90.
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高木俊介 他(2018)「自律神経機能と鍼灸刺激の効果」『日本自律神経学会雑誌』55巻2号, 127–134.