
はじめに
こんにちは。大阪府枚方市にある はる鍼灸整骨院 の院長、島井浩次 です。
「夕方になると腰が張って伸ばせない」
そんな悩みを抱えたまま、毎日仕事を続けていませんか?
病院では「骨に異常はありません」と言われ、湿布や痛み止めを使いながら何とかごまかしてきたけれど、気づけば何年も同じことの繰り返し…。
今回ご紹介するのは、まさにそんな状況に悩まされていた50代の社長・Sさんの物語です。
Sさんは、特殊な鋳造品を作る工場の経営者。
朝7時、作業服に着替えて現場に立ち、炉の熱気の中で職人たちと一緒に製品を確認する毎日です。
「夕方になると腰が鉄板みたいに固まって、まっすぐ伸ばせないんです」
それでも現場を離れることはできず、仕事が終わるとソファに座り込んだまま動けなくなる日もありました。
小学生の息子さんから「お父さん、今日も腰痛いの?」と心配されるたびに、笑ってごまかすしかなかったと言います。
そんなSさんが「もう少し別の方法を試してみよう」と決めたときから始まる、回復までの13週間の記録です。
1. 社長の一日 止まらない現場、止まれない腰
■ 朝の工場 熱気と緊張の空気
まだ外がひんやりしている朝7時。
工場に入ると、巨大な炉から立ち上る熱気が空気を揺らしています。
Sさんは社長でありながら、いつも現場の最前線にいます。
「おはようございます!」
部下たちが声をかけると、
「おう、今日もよろしく頼むぞ」
と笑顔を見せますが、その背中にはすでに長年の疲労が溜まっていました。
■ 午前 忍び寄る違和感
作業台の前で図面を見つめ、部下に指示を出しながら、自分でも製品をチェックするSさん。
前かがみの姿勢で細かな作業を続けると、午前中はまだ「重いな」と感じる程度ですが、昼を過ぎると腰がじわじわと固まっていきます。
「同じ姿勢をしていると、腰が少しずつ硬くなっていく感じがするんです」
■ 夕方 鉄板のように固まる腰
午後5時。仕事が終わるころには、
「腰が鉄板みたいに固まって、まっすぐ伸ばせないんです」
作業が終わり、靴ひもを解くときには「よっこいしょ」と小さく声が漏れます。
部下の一人が心配そうに、
「社長、最近腰、大丈夫ですか?立ち上がるとき辛そうですよ」
と声をかけると、
「大丈夫、大丈夫。年のせいだよ」
と笑い飛ばしますが、内心は不安でした。
■ 家に帰ると 家族の優しい問いかけ
家に帰り、ソファに沈み込むのが日課。
小学高学年の息子さんが隣に座り、
「お父さん、今日も腰痛いの?」
と心配そうに聞きます。
「大丈夫だよ、ちょっと休めばすぐ治るから」
笑顔で答えるものの、奥様は心配そうに黙って見つめていました。
「でも、本当にこのままでいいのか?」
そんな思いが、Sさんを新しい治療へと向かわせました。
2. 初めての来院 ― 腰だけじゃない原因
初診の日、
Sさんは「20年分の腰痛」と「最近感じる首こりやめまい」を話してくれました。
■ 検査結果
- 右側の中殿筋、梨状筋、小殿筋、大殿筋に強い圧痛
- 首(後頭下筋群、頭板状筋、斜角筋)が石のように硬い
- ロンベルグテスト・指鼻指テストで右の小脳機能低下の兆候
■ 専門用語をやさしく解説
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トリガーポイント
筋肉にできる「硬いしこり」。押すと痛みが響き、離れた場所にも痛みを飛ばす“痛みの引き金”になります。 -
小脳
姿勢やバランスをコントロールする「司令塔」。
ここがうまく働かないと、体が必要以上に力んでしまい、筋肉に負担がかかります。
Sさんの腰痛は単なる「使いすぎ」ではなく、神経のバランスが崩れた結果、腰の筋肉に過剰な負担がかかっていたのです。
3. 鍼治療開始 「鉄板にひびが入ったような感覚」
最初の4回はトリガーポイント鍼治療が中心でした。
鍼が入ると、Sさんは眉をしかめながらも、
「ズーンと奥に響く感じがしますね。悪いところに当たってる気がします」
鍼が筋肉の奥深くに刺激を入れることで、血流が良くなり、酸欠状態がリセットされます。
Sさんは「詰まっていたホースが一気に通ったみたいだ」と言いました。
4回目が終わるころには、
「夕方のパンパン感が半分くらいになってきた気がします」
と笑顔が戻りました。
4. 小脳トレーニング開始 「なんで目を動かすんですか?」
5回目以降、鍼に加えて機能神経学的トレーニングを導入しました。
最初は疑問だらけだったSさん。
「腰が痛いのに、なんで目を動かすんですか?」
説明すると納得してくださいました。
「小脳は姿勢のバランスを調整する場所で、目の動きと強くつながっています。目を動かすトレーニングで小脳を活性化すると、無駄な力が抜けて腰の負担が減ります」と。
■ トレーニング内容
- 目を追う運動(視線トレーニング)
- 横隔膜を意識する呼吸法
- バランス練習(片足立ちなど)
6回目ごろから、
「立ち仕事の後でも体がふらつかなくなりました」
と変化を実感されました。
5. 13週間後 「社長、最近動きが軽いですね」
13回目が終わるころには、Sさんは別人のようでした。
「夕方になっても腰を気にしなくなりました。炉の前で背伸びをする余裕があるんです」
現場の部下からも、
「社長、最近動きが軽いですね。前は夕方になると顔が疲れてましたよ」
と声をかけられました。
家に帰ると、息子さんが嬉しそうに、
「お父さん、今日は腰痛くないの?」
と聞き、
「ああ、全然痛くないよ」
と笑顔で答えたとき、奥様もほっとした表情を見せたそうです。
6. 腰痛は「腰だけの問題」じゃない
Sさんのように、
- 夕方になると腰がパンパンになる
- 首こりや軽いめまいがある
- 検査では異常なしと言われたが痛みが続く
という方は少なくありません。
腰痛は「腰だけの問題」ではなく、神経や脳のバランスが崩れることで筋肉に過剰な負担がかかり、痛みが長引くことも多いのです。
参考・出典論文
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Zhang X, et al. Electroacupuncture at Traditional Acupoints or Myofascial Trigger Points for Chronic Nonspecific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial. 2024.
-
Prevalence of Latent Trigger Points in Gluteus Medius among Low Back Pain Patients. BioMed Res Int. 2023.
-
Cleveland Clinic. Cervical Vertigo (Cervicogenic Dizziness). 2024.
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Liu Y, et al. Functional Disability and Postural Balance in Chronic Low Back Pain. Front Neurol. 2023.
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Lee S, et al. Trigger Point Acupuncture Combined with Exercise for Chronic Low Back Pain. JAMS. 2022.