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はじめに

こんにちは。はる鍼灸整骨院 院長の島井浩次です。

当院では、一般的な肩こりや腰痛といった“よくある不調”の背景に、見落とされがちな神経的な要因や感覚のズレが関係していることに着目し、トリガーポイント鍼治療と機能神経学的アプローチを組み合わせた施術を行っています。

今回ご紹介するのは、会社勤めをしながら日々がんばっている30代の女性が、「なぜかいつも疲れやすい…」という違和感から来院され、施術を通して少しずつ自分を取り戻していったお話です。

同じように、「検査では異常がないけれど、つらい」「私だけなぜこんなに疲れるんだろう?」と感じている方にとって、なにかヒントになれば幸いです。

 

 

▶「私だけ、なんかおかしい」から始まった日々

「病院では“異常なし”って言われるんです。でも、毎日肩がパンパンに張って、頭も重くて…。腰も痛いし、最近は足の方までしびれるような感じがあるんです。」

彼女がそう話したとき、その声には「どこかに本当の答えがあるはずだ」と願うような思いが滲んでいました。

30代後半の彼女は大阪市内の企業で事務職をしています。

デスクに座って資料をまとめたり、メールに目を通したり。

一見、身体を酷使するような仕事ではないはずなのに、終業後にはクタクタ。

特に月曜や金曜の朝は、ベッドから起き上がるだけで一苦労だったといいます。


この疲れ方、ただの肩こりや腰痛では済まない…そう感じて、整形外科を受診しました。

しかし、レントゲンでもMRIでも“異常なし”。処方されたのは湿布と痛み止めだけ。


「もしかして私、どこかおかしいのかな」

そんな不安を抱えて、当院に来院されました。

 

 

 

背景にあった“発達特性”と原始反射の残存

初回カウンセリングで気になったのは、彼女の話すスピードの速さと、目線が定まらない様子。

丁寧に話をしてくれるのですが、どこか落ち着かず、緊張が表情から抜けませんでした。


話を進めるうちに、彼女は子どものころに“落ち着きがない”とよく言われていたこと、大学時代に受けた心理検査でADHDの傾向があると指摘されたことを教えてくれました。

彼女の疲れやすさ、体の痛みや感覚の過敏さ。

その背景には、発達特性のひとつとしての神経系の敏感さが隠れているかもしれないと直感しました。


そこで行ったのが、「原始反射」のチェックです。

 

 

 

“原始反射”が消えていないとどうなるのか?

赤ちゃんのころに誰もが持っている“原始反射”は、発達とともに自然に消えていくもの。

しかし、何らかの理由でこの反射が消えずに残ってしまうと、大人になってからも無意識にその反射が働き、体に余計な緊張を生んでしまいます。


彼女の検査では、以下の原始反射の残存が確認されました。
 

  • モロー反射(音や刺激に対する過剰反応)
  • ATNR(頭を左右に回すと片方の手足が伸び、反対側が曲がる)
  • TLR(頭の前後の傾きにより、体幹や脚が不随意に伸展/屈曲する)

 

これらの反射がわずかに残っているだけでも、体は常に“緊張状態”を維持しようとします。

例えるなら、車のブレーキとアクセルを同時に踏んでいるようなもの。

走ってはいるけれど、燃費が悪く、エンジンに負担がかかる状態です。

 

 

▶目の動きと姿勢の密接な関係

原始反射のチェックと並行して、もう一つ重要な検査を行いました。

それが「眼球運動」のテストです。


彼女の眼をよく観察すると、左目に軽度の内斜視が見られました。

つまり、目を真っ直ぐ向けているつもりでも、実際には視線が内側に寄ってしまっている状態です。


ご本人には複視(二重に見える)などの自覚症状はなかったものの、眼球の追従運動(パスート)や素早い視線移動(サッケード)、さらに輻輳(両目が近くを見るときに寄る動き)に明らかな左右差が確認されました。

目と首は連動しています。

特に後頭下筋群と呼ばれる、首の最深部にある小さな筋肉群は、眼球の動きと密接に関係しており、目が過剰に緊張すると、首の筋肉も反射的にこわばってしまうのです。


検査の際、彼女の後頭下筋群には多数の圧痛点があり、軽く触れるだけで強い違和感を訴えました。

 

 

 

▶「肩こり」は結果だった

私たちが一般的に感じる「肩こり」や「頭痛」は、あくまで結果にすぎません。

ではその“原因”は何か?


彼女の場合、眼球運動の左右差と原始反射の残存による身体の緊張パターンが、その原因となっていたのです。

たとえば、いつも目線がズレた状態でモノを見ていると、脳は「正しく見よう」と無意識に補正し続けます。

まるで、傾いたメガネをかけてずっと生活しているようなもので、そのズレをカバーしようとする筋肉が常に働きっぱなしになるのです。


その結果として、斜角筋、僧帽筋、後頭下筋群などにトリガーポイント(筋肉の緊張と痛みの発生源)が形成され、「肩こり」「頭痛」といった不快な症状が現れていました。

 

 

 

▶腰痛と坐骨神経痛の“もう一つの顔”

彼女が悩んでいたもう一つの大きな問題——それは「腰痛」と「左側の坐骨神経痛」でした。

整形外科では異常が見つからず、湿布と鎮痛薬が出されたものの、症状はむしろ悪化。

特に長時間座っていると、腰から足にかけてジーンとした重だるさが広がっていくような感覚が続いていたそうです。


触診により、臀部の中臀筋や梨状筋、外旋筋群に明確な圧痛点を確認。

いずれもトリガーポイントが形成されており、ここからの関連痛が坐骨神経周囲に広がっていることがわかりました。


さらに、原始反射と眼球運動の異常によって、体幹の軸感覚や姿勢制御が乱れ、片側重心の姿勢が習慣化していたことも、腰部への負担を悪化させる要因となっていたのです。

 

 

 

▶施術のはじまり——“今ある感覚”を信じすぎない

施術は、週1回のペースでスタートしました。

初期の段階では、トリガーポイント鍼治療を中心に行いながら、並行して機能神経学的なアプローチで「神経のチューニング」を始めていきました。

まずは後頭下筋群、斜角筋、中臀筋、梨状筋など、痛みの発信源となる筋肉に対するトリガーポイント鍼治療。

そして、施術後には必ず眼球運動の再教育や体幹の軸感覚を取り戻すための軽い課題も行っていただきました。


このとき大切にしたのは、「今感じている自分の体の感覚」を一度リセットすること。

原始反射の残存や視覚の情報のズレによって形成された“歪んだ基準”に頼っていると、いくら正しい動きを学んでも、脳は「こっちの方が落ち着く」と間違ったパターンを維持しようとするからです。

 

 

▶少しずつ、でも確実に変化していく

3回目の施術を終えたころ、彼女の様子に少し変化が見えてきました。

「なんか、朝の首の重だるさが少しマシです」

「足のしびれ、あれ?って思うぐらい薄くなってる感じです」

大きな変化ではありませんが、こうした“ささやかな違和感の解消”は、神経系へのアプローチが効いてきた証拠です。

特に眼球運動と頸部筋の連動を調整するエクササイズでは、最初は混乱していた視線の動きが徐々にスムーズになり、それに伴って肩こりや頭痛の頻度も減ってきました。

まるで、長年絡まっていた糸を少しずつほどいていくような感覚。

最初の数回は手応えが少なくても、根気強くほぐしていけば、必ず道は拓けていきます。

 

 

 

▶気づき——「ずっと“がんばりすぎてた”かも」

5〜6回目の施術あたりから、彼女の表情がやわらかくなっていったのが印象的でした。

「家に帰って、ソファでくつろぐって感覚が久しぶりに分かりました」

「前は常に“次どうしよう”って思ってたんですけど、最近は“今”に集中できる気がします」

この感覚の変化には、神経学的な背景があります。

過緊張状態をつくる交感神経優位な状態がゆるみ、副交感神経系の働きが回復してきた証拠です。

呼吸もゆっくりになり、睡眠の質も改善していったとのことでした。


原始反射が残っている方は、周囲の環境に過敏で、安心を感じづらくなります。

“安心できない”という前提の中で生きていれば、常に体と心は全力稼働のまま。

知らず知らずのうちに、消耗してしまうのです。

 

 

 

▶“治す”ではなく“整える”という視点へ

8〜10回目の施術では、身体的な痛みの多くは緩和し、残っていたわずかな違和感もかなり軽減されました。

ただ、ここで大切なのは、「完治を目指すこと」ではなく、「日々のバランスを整えていくこと」に視点を移すこと。

彼女には、月に1回のメンテナンス施術を継続していただきながら、自宅でもできる簡単な眼球運動や体幹トレーニング、呼吸法を継続してもらっています。

「私だけ、なんでこんなに疲れるの?」

そう感じていた彼女が、今ではこう言ってくれています。

「“私のペース”でいいんだなって、思えるようになりました」

 

 

 

▶最終章 “わかってもらえる場所”があるということ

彼女の症状は、完璧に「消えた」わけではありません。

でも、苦しさの“輪郭”が見えたことで、不安の正体が少しずつ形を失っていきました。



「どうせ誰にも理解されない」

「私だけが変なんだ」
 

そう感じていた時期から、今では

「私は私。だからこそ、整えながら進めばいい。」

という自分らしいペースを取り戻せています。


誰かにわかってもらえる。

自分の感覚を信じてみてもいい。

それだけで、人はちゃんと変われるのです。

 

 

 

▶【セルフチェック】あなたにも当てはまりますか?

もし、あなたがこんな悩みを抱えているなら、それは身体の深い部分——神経系や感覚のズレが関係しているかもしれません。
 

  • 肩こりや腰痛がいつまでも続いている

  • 検査では異常なし。でもつらい

  • なぜかいつも疲れやすい

  • 人混みや音に敏感

  • ストレスがかかると頭痛がする

  • 子どものころから落ち着きがなかった

  • 姿勢が悪いとよく言われる

  • イライラしたり、集中力が続かない
     

こうした症状の裏には、「原始反射の残存」や「感覚統合の問題」「眼球運動のズレ」など、表面的な“症状名”では見えない要因が隠れているケースも多いのです。

 

【施術の流れ】
 

▷ 初回(約60〜75分)

  • カウンセリング(生活習慣・既往歴など)
  • 姿勢評価、原始反射・小脳・眼球運動などの神経系評価
  • トリガーポイントの検査と施術(鍼治療)


 

▷ 2〜10回目(週1回ペース)(約30分)

  • 神経系の調整(眼球運動・軸感覚など)
  • トリガーポイント鍼治療
  • 必要に応じた呼吸法やセルフエクササイズ


 

▷ 11回目以降(月1回のメンテナンス)(約30分)

  • 神経系の機能維持・再教育
  • 日々のセルフケアの確認と調整


 



▶おわりに

長文をここまでお読みいただき、ありがとうございました。

「なんで私だけ…」と思ってしまうあなたの心と身体に、ほんの少しでも安心を届けられていたら嬉しく思います。

一人ひとりに合わせた視点で、根本から整えていくこと。

それが、私たちの役目です。


必要な時は、どうぞ安心してご相談ください。

 

 


【参考・出典論文】

  1. Goddard Blythe SA. The Role of Primitive Reflexes in the Development of the Visual System. Optometry. 2005;76(11):659-668.

  2. Ayres AJ. Sensory Integration and the Child. Western Psychological Services; 2005.

  3. Smania N, et al. Eye–head coordination in patients with chronic neck pain: effects of rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil. 2008;89(4):664-670.

  4. Simons DG, Travell JG, Simons LS. Travell & Simons' Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual. Vol 1 & 2. Lippincott Williams & Wilkins; 1999.

  5. Leisman G, Melillo R, Carrick FR. Clinical motor and cognitive neurobehavioral relationships in the basal ganglia. Int J Neurosci. 2013;123(4):205–210.

  6. Carrick FR. Changes in brain function after manipulation of the cervical spine. J Manipulative Physiol Ther. 1997;20(8):529-545.


 

 

 

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