不眠と肩こり・頭痛を改善した20代男性営業職の実体験

はじめに
こんにちは。当院のブログをご覧いただきありがとうございます。
鍼灸と神経機能に着目した施術を行っているはる鍼灸院の院長、島井浩次と申します。
これまで患者さまと関わる中で、最近とても多くなってきたと感じるのが、「不眠」と「ストレスによる体調不良」のご相談です。
特に20代〜30代の男性の方が、「仕事はうまくいっているはずなのに、なぜか体がついてこない」と訴えるケースが増えています。
今回はそんな中の一例、
「転職は成功だった。でも、なぜか眠れない。体がどんどん重くなる…」
と訴えて来院された20代の営業職の男性のお話をご紹介いたします。
一見“順風満帆”に見える日々の裏に、心と体のバランスを崩す落とし穴が潜んでいた——。
同じように「自分でも理由がよくわからない不調」に悩む方の、ひとつのヒントになれば幸いです。
1:理想の職場に転職できたのに
「もうあの職場には戻りたくないって、ずっと思ってたんです」
初めて当院を訪れたTさん(仮名)は、少し疲れた笑顔でそう話してくれました。
彼は20代後半の営業職。
前職では上司との人間関係が原因で、毎日が神経をすり減らすようなストレスに満ちていたといいます。
「昼休みですら気が休まらない。上司の顔色をうかがって、胃が痛くなる毎日でした」
そんな状況を抜け出し、今の職場に転職したのが半年前。
今の会社は、上司も同僚もみな穏やかで、仕事内容も自分に合っている——理想の環境でした。
「でも、なぜか夜になると眠れないんです。仕事で疲れてるはずなのに、眠気が来ない。寝ても2〜3時間で目が覚めてしまう」
しっかり眠れない日が続くうちに、朝起きたときの頭痛や肩の重だるさが強くなり、ついには仕事にまで支障を感じるように。
内科で相談したところ、血圧が少し高め(140/80)との指摘。睡眠薬を処方されましたが、「薬で寝ても、スッキリしないんです」と話されていました。
2:不眠・肩こり・頭痛の関係
Tさんの主な訴えは以下の3点でした。
- 寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める
- 肩が常に重だるく、頭痛も週に2〜3回起こる
- 仕事で集中力が続かず、イライラしやすくなっている
仕事ではPCでの資料作成が多く、日中のスクリーンタイムは7〜8時間。
さらに、帰宅後もプライベートでスマホやPCを使っており、1日10時間以上、目を酷使している状況でした。
3:身体の“地図”がズレていた
初診時の評価では、Tさんの後頭下筋群(頭のつけ根にある小さな筋肉たち)に多数の圧痛点(トリガーポイント)が確認されました。
この筋肉群は、例えるなら「首のジャイロセンサー」。
眼球の動きと連動して、頭の傾きや姿勢の微調整をしてくれる大切な筋肉です。
しかし長時間のスクリーン凝視や、睡眠不足、交感神経の過活動によって、このセンサーが狂うことがあります。
たとえるなら、GPSの座標がズレたまま車を運転しているような状態。
体の“今どこにいるか”という情報が正確に把握できなくなり、それを補うために余計な筋緊張が生じてしまうのです。
4:トリガーポイントと神経の“誤作動”
さらに調べていくと、Tさんには以下のような特徴がみられました。
- 斜角筋群や胸鎖乳突筋に強い圧痛
(=自律神経の中継地点である頚部交感神経節への影響) - 目の疲れ・首の硬直からくる位置覚異常
(=姿勢の微調整が乱れる) - IML(脊髄側角)レベルの交感神経制御低下
(=睡眠中も交感神経が“オン”になったまま)
つまり、体の一部の“歪み”や“過緊張”が、自律神経のバランスを乱し、睡眠や肩こり、頭痛にまで波及していたわけです。
5:施術のアプローチと変化
Tさんには、以下のアプローチを提案しました。
-
トリガーポイント鍼治療:
後頭下筋群・斜角筋群・胸鎖乳突筋など、緊張の強い部位にアプローチ -
機能神経学的アプローチ:
眼球運動・前庭刺激・迷走神経刺激などを通じて、大脳皮質と自律神経系の調整を実施
●施術経過(週1回×8回)
回数 | 内容 | 変化 |
---|---|---|
1回目 | 鍼刺激と眼球運動評価 | 「少し首が軽くなった」 |
3回目 | 後頭下筋・斜角筋の深部リリース | 「寝つきが早くなった」 |
5回目 | 自律神経へのアプローチ強化 | 「頭痛が激減」 |
8回目 | 姿勢と睡眠の維持戦略確認 | 「ほぼ朝までぐっすり眠れるように」 |
その後は月1回のメンテナンスに移行し、日常生活でもスクリーンタイムの調整や呼吸法の習慣化を継続。
「睡眠の質が変わると、日中の疲れ方が全然違いますね」と笑顔を見せてくださいました。
6:心と体は同時に変わらないこともある
Tさんのように、「転職して環境が良くなったのに、不調が出る」という方は意外と多くいらっしゃいます。
それは、“心の安心”に体が追いつくには時間がかかるからです。
体は、過去のストレス環境に「慣れて」しまっていて、安全になった今でも警戒を続けてしまう。
だからこそ、体の緊張をひとつひとつほぐし、「もう大丈夫だよ」と体に教えてあげる必要があるのです。
おわりに:「眠れる自分」に戻るということ
不眠というと「心の問題」「メンタルの弱さ」と誤解されることもありますが、実際には身体の構造や神経機能の影響も大きく関わっています。
そして、その構造や機能は、鍼や神経へのアプローチによって改善が可能です。
Tさんのように、「原因がわからないけどなんとなく不調」という方は、ぜひ一度、体の“センサー”を整える施術を受けてみてください。
きっと、“本来の自分”に戻る第一歩になるはずです。
参考文献・出典
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Travell, J., & Simons, D. (1999). Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual.
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Kandel, E. R., Schwartz, J. H., & Jessell, T. M. (2012). Principles of Neural Science.
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Chrousos, G. P. (2009). Stress and disorders of the stress system. Nature Reviews Endocrinology.
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Saper, C. B. et al. (2005). Hypothalamic regulation of sleep and circadian rhythms. Nature.
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宮川博義・樋口貴広 (2018). 自律神経と慢性疼痛の神経生理学. ペインクリニック.