21歳ラグビー部男子学生の回復ストーリー

はじめに
こんにちは。はる鍼灸整骨院の院長、島井浩次です。
これまで多くのスポーツ選手や日常の中で起こる不調を抱えた方々のケアを行ってきましたが、その中でも「もう治ったはずなのに、なぜか痛みが続く」というお悩みはとても多い印象があります。
今回は、大学でラグビーを頑張る21歳の男子学生さんが、捻挫から半年たっても消えなかった足首の痛みから回復されたエピソードをご紹介します。
足首の痛みが続いている方、スポーツ現場に関わる方、そして「レントゲンでは異常なし」と言われたけれど違和感が残っている方にとって、大きなヒントになる内容かもしれません。
「治ったはずなのに」痛みが続いた日々
ご相談いただいたのは、大学のラグビー部に所属する21歳の学生さん。
ポジションはウィングで、俊敏な動きが求められるポジションです。
半年前の練習試合中、相手選手との接触プレーの中で足首を強く内側に捻ってしまい、いわゆる「内反捻挫(ないはんねんざ)」を発症。
整形外科を受診し、前距腓靭帯の損傷と診断され、しばらくはギプス固定とリハビリを続けてこられました。
2ヶ月後には「靭帯はもう治癒してますよ」と病院からも言われ、復帰の許可も出ました。
…でも、どうも足首の奥に鈍い痛みが残る。
特に、急な切り返しやジャンプ着地のとき、「グキッといきそうな」感覚が抜けず、思いきったプレーができない。
「もう半年も経ってるのに、まだ痛いなんておかしくないですか…?」
その言葉の裏には、プレーへの不安、再発の恐怖、チームに迷惑をかけたくないという焦りがありました。
見落とされがちな「筋肉」からの信号
当院で最初に行ったのは、靭帯だけではなく筋肉や神経の反応を丁寧に診ていくことでした。
すると、ある筋肉に明らかな異常反応が出ていたのです。
●圧痛が見つかった筋肉
- 前脛骨筋(ぜんけいこつきん)
- 短腓骨筋(たんひこつきん)
これらは、足首を内反(足裏を内側に向ける動き)・外反(外に向ける)させるときに重要な筋肉で、内反捻挫の際に強く引き延ばされる部位でもあります。
つまり、靭帯が傷んだ瞬間、靭帯と一緒にこれらの筋肉も“引っ張られて”ダメージを受けていた可能性が高いということです。
例えるなら、地面に張ったロープを杭で固定していたとして、その杭(靭帯)が強い力で引き抜かれたとします。
普通は「杭が抜けた=問題はそこ」と考えがちですが、実はその瞬間、ロープ自体(筋肉)にも強い引き伸ばしの負荷がかかり、繊維がねじれたり傷んでいた──そんなイメージです。
靭帯の回復=完治ではない理由
捻挫というと、靭帯の損傷がクローズアップされがちですが、実はその周囲の筋肉や神経も少なからず傷んでいます。
そして、特にスポーツ現場では、
「見た目が治った」=「中身も完全に元どおり」
とは限らないのです。
靭帯は治った。でも、筋肉には“関連痛”という形で痛みが残っていた。
このように、「構造的な問題(靭帯の損傷)」が回復しても、「機能的な問題(筋肉や神経の異常信号)」が残ったままだと、なかなかスッキリしない痛みが続きます。
施術のアプローチ①:トリガーポイント鍼治療
まず行ったのは、トリガーポイント鍼治療。
痛みを出している筋肉の中に形成された“しこり”のような緊張部位=トリガーポイントを、鍼で直接緩めていきます。
特に刺激を入れたのは、以下の2点です。
●前脛骨筋・短腓骨筋への刺鍼
筋肉を狙って深く刺すことで、奥に潜んでいた緊張を緩め、痛みを軽減。
●足関節周辺の機械受容器への微刺激
足首の関節まわりには、体の“位置情報”を感知するセンサーのような受容器(機械受容器)が点在しています。
そこに微細な鍼刺激を加えることで、感覚の“再起動”を図ります。
これにより、「本当はもう痛くないのに、脳がまだ“痛い”と誤認している状態」からの脱却を目指しました。
施術のアプローチ②:機能神経学的リハビリ
神経系へのアプローチとして行ったのは、機能神経学に基づく位置覚の修正トレーニングです。
●位置覚のズレとは?
例えば、目をつむった状態で足首を動かしたとき、「今、どれくらい曲げたか・伸ばしたか」を正しく感じ取る力を位置覚と言います。
捻挫後は、このセンサーの精度が落ちているため、本人の感覚では「まっすぐ足を着いたつもり」でも、実際は傾いていたりブレていたりします。
これでは、再発のリスクが高くなるのも当然です。
そこで、バランスパッド上での立位保持や、片脚ジャンプ、視覚遮断下でのトレーニングを通じて、「自分の足が今どこにあるか?」を再学習していきました。
回復までの過程
初回施術後、「足首の奥の重だるさが軽くなった気がします」との感想。
4回目には「練習後の痛みが出ない日が増えてきました」と変化が見られ、
8回目の施術が終わる頃には、「テーピングなしで試合に出られました!」と笑顔で報告いただきました。
「まだ痛い」は、決して気のせいじゃない
半年も前の捻挫だし、レントゲンでは異常なし。
それでも「まだ痛む」という感覚には、ちゃんと身体なりの理由があります。
多くの場合、“構造”ではなく“機能”の問題が残っているのです。
逆に言えば、そこに焦点をあてて施術すれば、
「諦めていた痛み」がスッと引いていくケースも少なくありません。
まとめ:本当の意味で“治る”ということ
今回のケースを通じてお伝えしたいのは、
「靭帯が治った=もう終わり」ではない、ということです。
スポーツでのケガには、構造的ダメージと同時に、
感覚や運動の“ズレ”が生まれていることが多く、
そこまで見ていかないと、本当の意味での“治癒”にはつながりません。
「痛みが続いているのは、自分の気のせいかもしれない…」
そう思ってしまっている方に、
「違いますよ、ちゃんと体がサインを出しているんです」
と伝えたいです。
ご相談はお気軽にどうぞ
はる鍼灸整骨院では、痛みの「奥にある本当の原因」を見極めることを大切にしています。
整形外科では異常なしと言われた、でもまだ痛い…
そんな方の力になれるかもしれません。
気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献・出典
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Gribble, P. A., Hertel, J. (2004). Rehabilitation considerations in the treatment of ankle instability. Journal of Athletic Training, 39(3), 329–337.
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Travell, J. G., & Simons, D. G. (1999). Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual.
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Leanderson, J., et al. (1993). Reflex stimulation of the peroneal muscles in functional instability of the ankle joint. International Journal of Sports Medicine, 14(3), 157-161.
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Han, J., Anson, J., Waddington, G., et al. (2015). Proprioceptive deficits from ankle injury: A critical review and meta-analysis. Sports Medicine, 45(12), 1689–1705.