
▶はじめに : 原因不明の“ぐるぐる”に悩むあなたへ
「ふわふわする」
「急に世界が回る」
「立ち上がるとクラッとする」
こんなめまいの症状で耳鼻科に行ったのに、「異常なし」と言われ、どうしていいかわからなくなってしまった…。
実際、当院にはこうした「検査で異常が見つからないのに症状がつらい」という方が多く来院されます。
こんにちは。はる鍼灸整骨院の院長 島井浩次です。
今回ご紹介するのは、まさにその一人。
耳鼻科で異常なしと診断されながらも、めまいに悩まされていた女性の回復ストーリーです。
思いがけない「足首の古傷」が原因だっためまい。その背景にある神経の働きを、少し専門的な視点も交えながら、わかりやすくお伝えします。
▶めまいに悩まされる日々…きっかけは突然だった
40代女性・事務職のSさん。
ある日、立ち上がった瞬間に天井がグルグルと回るような感覚に襲われました。
最初は「疲れてるのかな?」と軽く考えていたものの、その後も立ちくらみのようなめまいやふわふわ感が頻繁に起きるように。
心配になって耳鼻科へ行くと、聴力検査・眼振検査・MRIなど一通りの検査を受けた結果…
「異常なしですね。自律神経かもしれませんね」とあっさり。
処方されたのは抗めまい薬とビタミン剤。
しかし症状は一向に良くならず、不安と frustration だけが募るばかりでした。
▶「もしかして…これも関係ある?」―忘れていた過去の足首の捻挫
当院に初めて来院されたSさんは、不安そうな表情でこう話してくれました。
「耳は悪くないって言われたけど、日常生活がつらいんです…。」
丁寧に問診と身体の評価をしていく中で、ふと出てきたエピソードがありました。
「あ、そういえば昔バレーボールをしてた頃、何度も足首を捻挫してました。」
これこそが、Sさんのめまいの“本当の出発点”だったのです。
▶めまいの原因は「脳」だけじゃない? ― 足部感覚と脳の意外な関係
「めまい=耳か脳の問題」というイメージが強いかもしれません。
たしかにそれは間違いではありません。
しかし、見落とされがちなのが「足」からの影響です。
足は全身のバランスを取る“センサーの集まり”。
とくに足首周辺には、位置覚(今、足がどこにあるかを感じる感覚)を司る受容器がたくさん存在します。
足首を捻挫すると、このセンサーがうまく働かなくなり、
- 地面からの感覚入力が狂う
- 体の姿勢バランスを司る脳(小脳・前庭系・体性感覚野など)に正しい情報が届かなくなる
- 結果、脳が“自分の位置”を見失うことで、ふわふわしためまい感を感じる
という流れが起きてしまうのです。
▶神経の“混線”がもたらすふわふわ感 ― 神経学的な見立て
Sさんの足首は、外見上は何の問題もありませんでした。
しかし、機能神経学的な評価を行うと、いくつかの異常が明らかになりました。
足部からの感覚入力異常
・目を閉じての片足立ちテスト:左足では大きくふらつく
・足底への軽い触覚刺激:左足で感度低下
・足関節の位置覚テスト:ズレて認識する傾向
小脳・大脳皮質の機能低下サイン
・指鼻試験で左右差
・目標物への眼球運動(サッケード)で微細なズレ
・姿勢保持反応の遅れ
これらの所見から、
「足部の感覚異常 → 感覚入力の偏り → 小脳や大脳皮質の調整機能低下 → めまい症状」という神経学的な流れが見えてきました。
▶治療 ― 足元から「脳」を整えるアプローチ
施術は大きく2本柱で進めていきました。
1. 鍼灸治療による足部感覚の活性化
足首周辺の感覚受容器(特に前脛骨筋・長腓骨筋・距骨周囲)に対し、低刺激の鍼を使用。
この刺激によって、足底の位置覚・深部感覚を再活性化させることが目的です。
また、内耳とつながりのある後頭下筋群・胸鎖乳突筋などの緊張にもアプローチし、頭頸部の血流や神経伝達を整えました。
2. 機能神経学に基づいた神経リハビリ
以下のようなエクササイズを取り入れ、日々の生活の中で「脳の再学習」を促しました。
- 片足立ち+目線固定による前庭系トレーニング
- 足裏への軽打刺激とともに目を閉じて立位保持
- 足部の感覚マッピング(温度差を感じ取る練習)
- 体性感覚と視覚・前庭感覚を統合するバランス訓練
これらの刺激は、ただ鍛えるのではなく「偏りのある神経回路を再統合する」ことが目的です。
▶数週間後、めまいが“気にならなくなった”瞬間が来た
治療を始めて3週間ほどが経過した頃、Sさんから嬉しい報告が。
「最近、めまいを感じることが減って、ふと“あれ?気になってない”って思ったんです。」
これまで、朝起きてすぐ・通勤中・買い物時などに頻繁に起こっていたふわふわ感が、ほぼ気にならなくなったとのこと。
その後も再発予防を意識したリハビリと鍼治療を継続し、2ヶ月後にはほぼ完全に症状が消失しました。
▶「足から脳へ」― それがめまい回復のカギだった
Sさんのように、「耳や脳の検査では異常がないのにめまいが治らない」方は決して少なくありません。
それは、「神経のつながり」や「感覚入力のバランス」に原因がある場合、画像検査や血液検査だけでは見つけにくいからです。
私たちは、体の感覚入力→神経系→脳の機能という“つながり”に注目しながら施術を進めていきます。
ときには、昔の足首の捻挫や、左右非対称な姿勢習慣などが原因となることもあります。
▶まとめ : めまいに悩む方へ伝えたいこと
- 「異常なし」と言われても症状があるなら、それは“気のせい”ではありません。
- 足首の機能や足裏感覚も、めまいに深く関係することがあります。
- 鍼灸と機能神経学の組み合わせで、感覚と神経の回復が期待できます。
- 本質は「症状を抑える」のではなく、「原因を整える」ことです。
出典・参考論文
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Dieterich M, Brandt T. "The bilateral central vestibular system: Its pathways, functions, and disorders." Ann N Y Acad Sci. 2015;1343:10-26.
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Proske U, Gandevia SC. "The proprioceptive senses: their roles in signaling body shape, body position and movement, and muscle force." Physiol Rev. 2012 Apr;92(4):1651–1697.
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Tjernström F, Fransson PA, Magnusson M. "Adaptation of postural control to perturbations – a process that initiates long-term sensory re-weighting." Clin Neurophysiol. 2010;121(3):458–463.
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Nigg BM, Nurse MA, Stefanyshyn DJ. "Shoe inserts and orthotics for sport and physical activities." Med Sci Sports Exerc. 1999;31(7 Suppl):S421–S428.