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はじめに

お灸(きゅう)治療は、古代から受け継がれてきた東洋医学の一つであり、日本でも長い歴史を持っています。

現代ではリラクゼーションの手段として注目されることもありますが、その根底には深い医療的な意味と科学的な効果が存在します。

本稿では、日本におけるお灸の歴史を振り返りながら、現代科学が明らかにした消炎・鎮痛効果の根拠について、専門的な内容をできるだけわかりやすく解説します。
 

お灸治療の歴史的背景

中国から日本へ

お灸の起源は古代中国にさかのぼります。

紀元前の文献『黄帝内経』には、すでに艾(もぐさ)を燃やして体に刺激を与える治療法が記されています。

この技術が6世紀ごろ、日本に仏教や漢方医学とともに伝来しました。


奈良・平安時代

奈良時代の歴史書『続日本紀』には、天皇が病を癒すために灸を受けた記録があります。

平安時代には宮廷の医官によって使用され、貴族の間でも盛んに行われました。

 


鎌倉〜江戸時代

鎌倉時代以降、お灸は武士や庶民の間にも広まり、江戸時代には庶民の家庭療法として定着します。

特に江戸後期には「自分でできるお灸」や「家庭医学書」も出版され、広く一般に普及しました。


有名な儒学者・貝原益軒も『養生訓』の中で「灸を日々すれば病を予防できる」と記しています。

 

お灸の基本原理

お灸は、ヨモギの葉を乾燥させた「艾(もぐさ)」を皮膚の上で燃やし、温熱刺激を加える治療法です。

これにより、経絡(けいらく)と呼ばれるエネルギーの流れを整え、身体のバランスを調整すると考えられています。


伝統的な理論

東洋医学では、「気・血・津液(しんえき)」の流れが滞ると病が生じるとされており、灸はそれらの流れを改善し、身体の自然治癒力を高める方法です。

 

科学的にみたお灸の効果

現代医学の視点からは、お灸の効果は主に以下のように説明されています。


1. 温熱刺激による血流促進

お灸による局所的な温熱刺激は、血管を拡張させ、血流を促進します。

これにより、炎症部位の代謝産物が除去され、組織の修復が促されます。

また、筋肉の緊張が緩和し、こりや痛みの軽減にもつながります。


 

2. 炎症性サイトカインの抑制

いくつかの研究では、お灸の刺激によってTNF-α(腫瘍壊死因子)やIL-6(インターロイキン6)などの炎症性サイトカインの産生が抑制されることが報告されています。

これにより、慢性炎症の軽減が期待できます。



3. 鎮痛物質の分泌促進

お灸刺激は、エンドルフィンやセロトニンなどの内因性鎮痛物質の分泌を促すことも示唆されています。

これらの物質は中枢神経系で痛みの信号を抑制し、自然な鎮痛効果を発揮します。


また、脊髄後角における「ゲートコントロール機構」(痛みの神経信号の流入を抑制する仕組み)にも作用すると考えられています。

 

臨床研究とエビデンス

近年では、灸治療の有効性を検証する臨床研究も増えています。

 

1. 腰痛や肩こりへの効果

慢性腰痛や肩こりに対するお灸のランダム化比較試験(RCT)では、痛みスコアの有意な改善が確認されています。

特に、ツボを正確に選択した場合に効果が高まることが示されています。


 

2. 線維筋痛症や変形性関節症

線維筋痛症患者に対しても、お灸が痛みとQOL(生活の質)の改善に寄与することが報告されています。

炎症性マーカーの低下と相関する例もあり、抗炎症作用が臨床的に有効である可能性が高いと考えられます。


 

現代におけるお灸の位置づけ

現代医療においては、お灸は代替・補完医療として位置づけられています。整形外科的疾患の補助療法や慢性痛、冷え症、自律神経失調症などに応用されています。

また、自己施灸(セルフケア)としての「せんねん灸」などの製品も市販されており、専門的知識がなくても手軽に取り入れられる時代になっています。

ただし、糖尿病や感覚障害がある方では、火傷のリスクがあるため、必ず専門家(医師・鍼灸師)の指導を受けることが重要です。

 

まとめ

 

お灸治療は、日本において千年以上の歴史を持ち、伝統医学の柱として発展してきました。

近年では、その温熱刺激が血流促進、炎症性サイトカインの抑制、鎮痛物質の分泌促進などを通じて、科学的にも一定の効果が証明されています。

現代人が抱える慢性的な痛みやストレス、不定愁訴に対して、お灸は安全で副作用が少ない自然療法の一つとして再評価されつつあります。

今後はさらに高品質なエビデンスの蓄積が期待される分野です。


 


参考文献・出典論文

  1. Li, J., et al. (2012). "Effects of moxibustion on TNF-α and IL-1β in rats with collagen-induced arthritis." Zhongguo Zhen Jiu, 32(10), 891–894.

  2. Choi, T. Y., et al. (2013). "Moxibustion for the treatment of pain: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials." Chinese Medicine, 8(1), 10.

  3. Lee, M. S., et al. (2010). "Moxibustion for treating pain: A systematic review." The American Journal of Chinese Medicine, 38(5), 829–838.

  4. Yao, T., et al. (2014). "Anti-inflammatory effects of moxibustion on collagen-induced arthritis in rats." Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2014, 515748.

  5. 貝原益軒『養生訓』岩波書店、1982年。

  6. 小曽戸洋『日本鍼灸の歴史』医道の日本社、1997年。

     

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