
「舌痛症」と筋肉のトリガーポイント
見逃されがちな原因と鍼治療の可能性
舌痛症とは?
舌痛症(Burning Mouth Syndrome: BMS)は、明確な原因がないにもかかわらず舌や口腔内に焼けるような痛みや違和感が持続する慢性疾患です。
特に中高年の女性に多く、舌の先端や側縁、口蓋などにチクチク、ピリピリ、灼熱感を感じることが一般的です。
見た目には異常がなく、口腔外科や耳鼻科を受診しても「異常なし」と診断されることが多いため、患者さんは大きなストレスを抱えやすいのが特徴です。
舌痛症の原因:ストレスだけではない
これまで舌痛症の原因は、ストレスや更年期障害、栄養不足(鉄分やビタミンB群の欠乏)、神経の異常などが指摘されてきました。
しかし、近年注目されているのが「筋肉由来の痛み」、つまり関連筋のトリガーポイントによるものです。
トリガーポイントとは?
トリガーポイント(myofascial trigger point)とは、筋肉の中にできる過敏な箇所で、押すと痛みが局所だけでなく離れた部位にも放散することがあります。
いわゆる「こりの芯」のようなものです。トリガーポイントができる原因は、筋肉の過使用、姿勢不良、ストレス、外傷など多岐にわたります。
舌痛症に関連する筋肉とトリガーポイント

舌の痛みに関連する筋肉として特に注目されているのが以下の筋群です。
-
顎二腹筋(がくにふくきん)
-
側頭筋
-
胸鎖乳突筋
-
咬筋
-
舌骨上筋群
これらの筋肉にできたトリガーポイントが、神経を介して舌に「放散痛」として痛みを伝えている可能性があります。たとえば、胸鎖乳突筋のトリガーポイントは、耳の奥や舌、喉の奥に痛みを飛ばすことが知られています。
鍼治療の有効性
このようなトリガーポイントによる痛みに対して有効とされるのがトリガーポイント鍼治療です。
トリガーポイントを正確に同定し、そこに細い鍼を刺入することで筋肉の緊張を緩和し、局所の血流改善や神経の過敏状態を鎮静させることができます。
研究によっては、舌痛症に対する鍼治療で症状が軽減された例も報告されており、特に「どこに行っても治らなかった」というケースにおいては、有望な選択肢のひとつとされています。
また、鍼治療は薬剤に頼らず、自然治癒力を引き出す方法であるため、副作用が少なく、長期的な体質改善にもつながる点が利点です。
一般の方へのアドバイス
舌に痛みがある場合、まずは内科や歯科、耳鼻科などでの診断を受けることが大切です。
それでも原因不明とされた場合には、筋肉由来のトリガーポイントを疑ってみる価値があります。
専門の鍼灸師による評価と治療を受けることで、思わぬ改善が期待できることもあります。
体の使い方、ストレス管理、姿勢の見直しといった日常的なアプローチも重要ですので、トータルな視点でのケアが求められます。
出典・参考文献
-
Simons, D.G., Travell, J.G., & Simons, L.S. (1999). Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual.
-
鈴木孝明(2020)「舌痛症と筋・筋膜痛の関係性」日本口腔顔面痛学会誌
-
日本鍼灸師会「トリガーポイント鍼療法の基礎と臨床応用」