
原因が分からない歯の痛み
歯の痛みと聞くと、多くの人は虫歯や歯周病などの歯科的な問題を思い浮かべるでしょう。
しかし、歯に異常が見られないにもかかわらず痛みを感じるケースがあります。
こうした「非歯原性歯痛」の一因として注目されているのが、咬筋(こうきん)にできるトリガーポイントです。
咬筋とは?

咬筋は顔の側面に位置する筋肉で、咀嚼(そしゃく)運動、すなわち物を噛む動作を担っています。
この筋肉は日常的によく使われるため、ストレスや姿勢の悪さ、歯ぎしりや食いしばりなどが原因で過度に緊張し、筋繊維の一部にトリガーポイントと呼ばれる圧痛点が形成されることがあります。
トリガーポイントとは?
トリガーポイントとは、筋肉の一部にできる硬くこわばった小さな「しこり」で、そこを押すと痛みが生じたり、離れた部位に関連痛(放散痛)を引き起こしたりする特徴があります。
咬筋にできたトリガーポイントは、歯そのものに問題がなくても歯の痛みのように感じる放散痛を引き起こすことがあります。
咬筋のトリガーポイントによる歯痛の特徴
このような筋由来の歯痛は、以下のような特徴があります。
-
歯科的検査で異常が見つからない
-
痛みの場所が移動することがある
-
一定の時間帯に悪化する(例:朝起きた時、仕事中など)
-
顔や顎、こめかみにも痛みやこわばりを感じる
-
筋肉を押すと痛みが再現される
原因となる行動や習慣
以下のような習慣が咬筋のトリガーポイント形成に関与する可能性があります。
-
長時間のデスクワークやスマートフォン操作による姿勢不良
-
睡眠中の歯ぎしり(ブラキシズム)
-
ストレスによる無意識の食いしばり
-
頻繁なガムの咀嚼や硬いものの摂取
対処法と予防
- トリガーポイントのリリース(鍼灸治療、指圧やマッサージなど)
-
姿勢改善やストレス管理
-
歯ぎしり対策としてのナイトガードの使用
-
咀嚼習慣の見直し
トリガーポイント鍼治療の有効性
トリガーポイントに対する鍼治療(ドライニードリングやトリガーポイント鍼治療)は、局所の筋緊張を緩和し、血流を改善することで、痛みの軽減に有効とされています。
特に慢性的な筋肉由来の痛みに対して高い効果が報告されており、歯痛のように感じる放散痛の改善にも寄与します。
鍼を用いた施術は、トリガーポイントを的確に刺激できるため、再発防止にもつながるとされています。
ただし、施術は国家資格を有する専門家に依頼することが重要です。
咬筋のトリガーポイントが原因の歯痛は、歯そのものの治療では解消しません。
痛みの根本にある筋肉の状態を整えることが重要です。
歯の痛みが続いているにもかかわらず、歯科検診で異常がないと診断された場合は、咬筋などの筋肉由来の問題を疑ってみることが大切です。
【出典】
-
Travell, J. G., & Simons, D. G. (1999). Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual.
-
日本口腔顔面痛学会「非歯原性歯痛の診断と治療ガイドライン」
-
日本鍼灸師会『筋筋膜性疼痛症候群に対する鍼治療の効果』