
現代人の生活に欠かせないスマートフォンですが、その長時間使用が心身に与える影響は大きく、とくに自律神経系への負荷が問題視されています。
自律神経は交感神経と副交感神経から成り、私たちの心拍、呼吸、体温、消化などを無意識に調整している重要な神経系です。
スマートフォンの使い方や環境によって、そのバランスが大きく乱れる可能性があります。
1. 姿勢と呼吸の関係

スマートフォン使用時の姿勢、特に前かがみや頭を下げた姿勢は、首や肩の筋肉に負担をかけ、胸郭の動きを制限するため、呼吸が浅くなります。
浅い呼吸は交感神経を刺激し、副交感神経の働きを抑制します。
その結果、自律神経のバランスが乱れやすくなり、頭痛、めまい、倦怠感、不眠などの自律神経症状が出現することがあります。
また、長時間の姿勢固定は眼球運動も制限し、視野の狭窄や注意力の低下などを引き起こすこともあります。
2. 眼球運動と神経系の負担

スマートフォンを見る際には、目と画面の距離が近くなるため、眼球は常に内側に寄せる「輻輳(ふくそう)」運動を続けます。
これは眼球運動を司る中脳や小脳の神経回路に負担をかける行為であり、遠くを見るための「開散」運動が困難になることで、眼精疲労や内斜視、さらには視覚情報の処理能力の低下にまで影響が及ぶことがあります。
これらの変化は視覚野や前頭前野の活動にも影響し、集中力や認知機能の低下といった二次的な症状を伴うことがあります。
3. ブルーライトと交感神経の活性化

スマートフォンのバックライトに含まれるブルーライトは、交感神経を過剰に刺激することが分かっています。特に夜間にブルーライトを浴びると、脳内の視交叉上核(SCN)に影響を与え、メラトニンの分泌が抑制されます。
メラトニンは体内時計を調節するホルモンであり、その分泌が妨げられることで、睡眠リズムが乱れ、自律神経の働きにも悪影響を及ぼします。
こうした状態が続くと、睡眠障害に加えて、心拍数の上昇、血圧の変動、筋肉の緊張、さらにはイライラ感や消化不良といった自律神経症状が生じやすくなります。
4. 対策と予防法

スマートフォンによる自律神経への負荷を軽減するためには、まず使用時間を見直すことが重要です。
特に就寝前の使用を控え、ナイトモード機能やブルーライトカットフィルターを活用することが勧められます。
また、適度に遠くを見る習慣を持つことで、眼球運動を正常に保ち、視覚系への負担を軽減できます。
姿勢の改善や深呼吸、ストレッチなどを日常に取り入れることも、副交感神経の働きを高め、自律神経のバランスを保つ助けとなります。
参考資料:局在神経学診断(文光堂)、カンデル神経科学(MEDSi)、標準生理学(医学書院)